2006 Fiscal Year Annual Research Report
改変の詩学と政治学--ハーディ後期小説に施された改稿の分析
Project/Area Number |
17520158
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上原 早苗 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 助教授 (00256025)
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Keywords | 英米文学 / トマス・ハーディ / 改稿 / テクスト |
Research Abstract |
トマス・ハーディは家庭向けの雑誌では性的な表現や挿話を削除・修正したが、版本ではそのほとんどを原稿どおりに復元したというのが、研究者の間に広く流布するハーディの改変の政治学である。本研究では、そうした改変の政治学がハーディ小説の全てを統べるわけではなく、独自の改変の文法を持つ小説--『カスタブリッジの町長』--があることを論証するのを最終目的としている。 本年度はまず昨年度同様、この小説の草稿解読に専念し、草稿解読を終えることが出来た。来年度は、初出誌から最終稿へ至る活字テクストの分析に移行するため、現在はヴァリアントを収集している。 またハーディ研究において改変は専ら通時的観点から論じられる傾向にあり、共時的観点から論の俎上に載せられることがほとんどなかった。改稿の相互連関や相互反照といったテクスト読解にとって興味深いと思われる点は不問に附され、そのためハーディ研究において書誌学的成果はほとんどテクスト分析に活かされてこなかったと言える。本研究では『町長』に施された改変を共時的観点から分析し、改稿によって生じたテクストの亀裂や空白、あるいは撞着する語りに焦点を当てながら読み返すことも目標としている。そこで現在は、改変によって生じた意味効果に注目しながら、『町長』論を執筆している。 また『町長』固有の改変の詩学を明確にするため、本年度はハーディの他の後期小説も分析することとした。取り上げたのは『ダーバヴィル家のテス』で、この小説の改変およびその意味効果に注目しながら『テス』を読み返すという作業を行った。なお研究成果は「改変の剰余価値をめぐって」と題した論文として纏め、日本ハーディ協会大会シンポジウム「再び『テス』の再読」(2006年10月28日,於大阪学院大学)において発表した。
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Research Products
(1 results)