2007 Fiscal Year Annual Research Report
改変の詩学と政治学-ハーディ後期小説に施された改稿の分析
Project/Area Number |
17520158
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上原 早苗 Nagoya University, 国際言語文化研究科, 教授 (00256025)
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Keywords | 英米文学 / トマス・ハーディ / 改稿 / テクスト |
Research Abstract |
トマス・ハーディは家庭向けの雑誌では性的な表現や挿話を削除・修正したが、版本ではそのほとんどを原稿どおりに復元したというのが、研究者の間に広く流布するハーディの改変の政治学である。本研究では、そうした改変の政治学がハーディの小説全てを統べるわけではなく、独自の改変の文法を持つ小説--『カスタブリッジの町長』--があることを論証するのを最終目的としている。 本年度は、この小説の活字テクストの校合分析に専念し、すべての異同をコンピュタ化・データ化した。現在は、この小説に固有の改変の文法を析出している。 またハーディ研究において改変は専ら通時的観点から論じられる傾向にあり、共時的観点から論の俎上に載せられることがほとんどなかった。改変の相互連関や相互反照といったテクスト読解にとって興味深いと思われる点は不問に付され、そのためハーディ研究において書誌学的成果はほとんどテクスト分析に活かされてこなかったと言える。本研究では『町長』に施された改変を共時的観点から分析し、改変によって生じたテクストの亀裂や空白、あるいは撞着する語りに焦点を当てながら読み返すことも目標としている。改変によって生じた意味効果に注目しながら、現在、『町長』論を執筆している。 また『町長』に固有の改変の詩学を明確にするため、本年度はハーディの他の小説も分析することとした。取り上げたのは『狂乱の群れをはなれて』で、この小説の改変およびその意味効果に注目しながら『狂乱』を読み返すという作業を行った。なお研究成果は「『狂乱の群れをはなれて』--『コーンヒル』誌の検閲に抗して」と題した論文として纏めた(日本トマス・ハーディ協会編『トマス・ハーディ全貌』、音羽書房鶴見書店、2007)。
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Research Products
(1 results)