2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520161
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
前野 みち子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (40157152)
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Keywords | 物語詩(バラッド) / ラブ・ソング / 北ヨーロッパ / 近世都市文化 / 一枚刷り印刷物 / 近世ドイツ / アントウェルペン / 比較文化史 |
Research Abstract |
平成18年度は主として十六世紀初頭から十七世紀にかけて印刷物の形で出回ったネーデルランドの歌集、その中でもとくに代表的なものとして知られるHet AntWerps Liedboek (Een Schoon Liedekens Boeck, 1544)を中心に読み進み、そこに含まれる恋の歌の歴史的出自やそれ以降の歌との影響関係について考察した。予期したとおり、この歌集には同時代のドイツの歌集と共通の根をもつ歌が非常に多く含まれており、その相互的影響関係については諸説あるが、印刷物によって流布した世俗歌の享受が、当時の都市中産市民にとって極めて魅力的な文化的営為であったことが確認された。また、以前は口承で、あるいは写本(筆写)の形で保存・継承されるのを常とした世俗歌が、印刷術の出現によってどのように様変わりし、新しい時代現象を生み出したのかについても、最終連に歌の作者を登場させる新形式や、歌の新しさをとりわけアピールする風潮など、いくつか特徴的な時代現象を見出すことができた。そしてこのような時代意識が、同時代の都市に生じた新しい恋愛現象をどのように歌に取り込もうとしたのか、歌い手のスタンスも含めて考察した。これらの成果の一部は、平成18年秋に刊行した著書にできる限り盛り込んだが、本研究のテーマ設定から見て断片的にならざるを得なかったので、来年度末の報告書に統一的な視点から今年度得られた知見をまとめたい。さらに、近世の物語詩(バラッド)を都市の文化史を目指して記述するという本研究の意図に即して、同時代の人文主義的潮流と印刷物(書物)及び図像の関係についても考察も進めた。世俗歌を愛する人々が同時に人文主義的知識人でもありうるという近世的現実も、併せて視野に収めておくべきだと思われる。
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Research Products
(2 results)