2006 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末のアメリカ小説とナショナリズムの諸相-グローバル化の中の国家と文学
Project/Area Number |
17520166
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
好井 千代 大阪大学, 文学研究科, 助手 (90200930)
|
Keywords | グローバリゼーション / ナショナリズム / 多文化主義 / 移民 / アメリカ / 19世紀 / ヘンリー・ジェイムズ / 資本主義 |
Research Abstract |
本研究の目的は、19世紀末にグローバリゼーションの潮流と葛藤しつつ時には密接に結びついて発展した欧米ナショナリズムの多様な形態(グローバリゼーションと対立する排他的な愛国主義や、民族主義、ネイティヴィズムから、グローバリゼーションを利用して展開する帝国主義あるいはアメリカの同化主義やcultural pluralismまで)を、同時代のアメリカ文学、特にコスモポリタンを自認すると同時にナショナリズムの隆盛も強く認識していたHenry Jamesの作品を通して分析し、明らかにすることだが、グローバリゼーションと対立する愛国的なナショナリズムを検証した昨年度から更に研究を進め、本年度は、グローバリゼーションと対立するのでなく、逆にその流れを利用しその流れと融合しながら発展した19世紀後半のアメリカの多文化主義的なナショナリズムに焦点をあて、そうしたナショナリズムの輪郭をHenry Jamesが作品中に極めて印象的に描きこんでいる点を検証した。具体的には、Jamesの初期の代表作の一つ"Daisy Miller"を取り上げ、19世紀後半にアメリカに脅威を与えるほど大量に流入したalienな新移民を思わせる下の階級の外国人と親しく交わる成金の娘である主人公が、新興経済国家アメリカにみられる、貧しい移民(移民は19世紀後半のグローバリゼーションの顕著な一つの現象)を格好のマーケットかつ労働力として歓迎し彼らにcapitalizeして伸張しようとする多文化主義的ナショナリズムの傾向を表している点を明らかにした。だが、最近では現代の国際状況を強く意識したネオコンサーヴァティズムやネオリベラリズム方面からの新たな優れたグローバリゼーション研究が相次いでいるので、本研究もそれら最先端の流れを取り入れて更に深化させるべく、目下、この方面の資料収集と、本研究の枠組みの練り直しとに励んでいる。
|