2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520175
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
村瀬 延哉 Hiroshima University, 大学院・総合科学研究科, 教授 (10089097)
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Keywords | コルネイユ / フランス / 演劇 / 17世紀 |
Research Abstract |
本年度はコルネイユ劇における英雄像の変遷を追いながら、主に1661年以降の後期作品を中心に分析を行なった。研究の手順としては、英雄達が《Gloire》を最高の行動規範としている点では『オラース』等から『シュレナ』まで不変であることを証明し、その後、専ら劇中に描かれる王権や国家と英雄の関係に着目して、英雄像の変貌の実態とその原因の解明にあたった。 コルネイユ後期の戯曲は政略結婚をテーマとするものがほとんどである。ルイ十四世の安定した治世では、王侯貴族の恋愛と結婚をめぐる政略こそが、最もリアリティを持った、政治的テーマであったからだ。こうした時代の変化を敏感に反映して、コルネイユ劇も変貌を遂げた。そこでは、政治目的と恋を実現しようとして、主人公を中心に結婚をめぐる様々な策謀が展開される。だが、国家理性は多くの場合に彼らの恋の実現を妨げ、国家の安泰と引き換えに、主人公達は己の愛の放棄を迫られるか、時には命を落とすことさえある。後期の戯曲で顕著なのは、このような国家と英雄の対立の図式であり、両者の間で最終的に和解が成立する場合でも、国家は英雄を幸せに出来ない。『ル・シッド』、『オラース』等に見られた英雄と王権・国家の間の幸福な協調関係はもはや存在しないのである。 こうした英雄の挫折を、ドルトのように、絶対王政に対するオフィシエ層の失望の表明と捉える見方も存在する。しかし筆者の考えでは、特に『ジュレナ』の場合、ライヴァルであるラシーヌへの老大家の挑戦が、より感動的な愛の悲劇を創造するため、王権に迫害される英雄の不幸を過度に強調する結果になったのであり、各種の演劇論等を分析してこの事実を明らかにした。後期のペシミスティックな英雄像は、政治的な時代背景や、死期を意識した作者の個人的な感慨等に加え、コルネイユによる作劇法の革新の試みが大きく作用しているのである。
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Research Products
(2 results)