2005 Fiscal Year Annual Research Report
バロックおよび啓蒙主義時代のドイツ文学における才能と職業と責任について
Project/Area Number |
17520177
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
佐藤 正樹 広島大学, 総合科学部, 教授 (90131143)
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Keywords | ドイツ文学 / バロック / 啓蒙主義 / 天才 / 職業 / 近世文化史 / 風俗史 / 生活史 |
Research Abstract |
平成17年度はとくにPaul Kluckhohn, Dichterberuf und burgerliche Exixtenz, Tubingen u.Stuttgart 1949およびGenie und Geld.Vom Auskommen deutscher Schriftsteller.Hg.v.Karl Corino.Reinbek 1991によりながら、詩人と職業という観点から、中世より近代までの概観を得るよう努めた。 ヘルダーリーンの詩「詩人の職業」によれば、詩人が神の召命にもとづく天職であり、それに全力で奉仕するべき存在だとすれば、詩人はそれゆえに飢えねばならないのか、生きんがために詩人としての使命・天職を粗末に扱っていいのか、という矛盾に苦しむことになる。そのとき、詩作と生活、職業と生業、召命と職業とは、不幸にも対立項をなすであろう。 中世人は詩人を特殊な職業とはみなさなかった。詩人もまた身分の一つとして共同体の一員であり、芸術によってパンをかせぐというよりも、むしろ騎士という職業のかたわら詩作に励む、しかも主君をたたえる歌を書いて暮していたのである。 ルネサンス期の人文主義者は、学問と教育と詩作とが密接な関係にあったため、生活の糧は教えることから得ていた。この時代に、活版印刷術の考案によって、創作から金銭を得るための前提条件が整った。 バロック時代にいたっても詩人が宮廷の一員である事情にかわりはない。ときには、詩人は同時に法律家、官吏、教師、聖職者として身を立てた。グリューフィウスはジュンディクスであり、イエズス会士の詩人はたいてい修辞学の教授であった。 したがって、研究課題のとおり、才能と職業と責任との乖離はバロック時代以降に顕著となる問題であることが明らかとなった。
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