2007 Fiscal Year Annual Research Report
バロックおよび啓蒙主義時代のドイツ文学における才能と職業と責任について
Project/Area Number |
17520177
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
佐藤 正樹 Hiroshima University, 大学院・総合科学研究科, 教授 (90131143)
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Keywords | ドイツ文学 / 天才 / 職業 / バロック / 啓蒙主義 / 近世 |
Research Abstract |
平成19年度は、おもにルターと同時代の聖クラーラ女子修道院長カーリタス・ピルクハイマーと、三十年戦争時代のイエズス会司祭にして詩人フリードリヒ・シュペーにおける才能と職業・責任・使命について研究を進めた。後者は、裏面記載の出版物の共訳者である佐々木れい氏より、専門的知識の提供を受けながら考察を深めた。 1)ニュルンベルクはいち早く宗教改革を受け入れ、1525年には市参事会において宗教改革導入が決定される。その結果、市内の修道院は解散・廃止を命じられたため、カトリック陣営は混乱をきわめた。ピルクハイマーは上記修道院の歴代院長のなかでもっとも長い期間その職にあったが、市参事会の介入と身命を賭して戦い、修道院と修道女とを守った。この間の経緯は本人のしたためた厖大な『回想録』と書簡に詳しい。その後、同修道院は新規に修道女を受けいれることを禁止されたため、ついにはいわば自然死を待つこととなったが、ピルクハイマーの力量と宗教的使命感との調和は、とくに女子知識人のめざましい実例として記憶されねばならない。 2)シュペーはきわめて複雑な個性ゆえに研究が停滞していた。しかし、詩集、聖歌(およびその作曲)、信心書、魔女迫害弾劾書の執筆と宣教・司牧活動そのものも、すべてがイエズス会司祭としての宗教的使命感につらぬかれていた幸福な実例である。すべての事物を、それ自身の本来の価値とは無関係なアレゴリーとみなし、神と直結させるバロック文学のなかで、シュペーがきわめて異質な印象を与えるのは、その健康な現実感覚である。それが人類史上もっとも過酷な気候に見舞われ、三十年戦争・疫病・魔女迫害・飢餓・天災などに人々が逃げまどったじだいにあって、シュペー文学を枯渇したアレゴリー文学から救ったのである。本研究課題において、シュペーは過酷な人生と時代ながら、もっとも幸福な実例のひとつである。
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Research Products
(1 results)