Research Abstract |
エミリア・パルド=バサンEmilia Pardo Bazan(1851-1921)の1880年代の小説,中でも昨年度から第六作『母なる自然』La madre Naturaleza(1887)に関する考察を進め,その結果を学会発表し文章化を試みていたが,同僚研究者たちから,書き出しの変容過程(細部)を記述するより先にまず,実際に「転回」と呼べるほどの変容が生じたのかという問題に取り組むべきではないかという助言を受けた。 そこで急遽,第七作『日射病』Insolacion(1889)の分析に掛かり,本作で書き出しが劇的な変容を遂げたこと,さらに,変容した特徴が約半年後に出版された第八作『郷愁』Morrina(1889)冒頭にも共通して見出せることを突き止めた。その上で,小説冒頭の物語論的な特徴が,作品全体の「語り」の構造やテクスト的特徴と因果関係にあるのではないかという仮説のもと研究を進めた。 成果は,第126回東京スペイン語文学研究会(東京大学駒場,9月22日)においてタイトル「パルド=バサンの転回-『日射病』(1889)の書き出し-」で,さらに,日本イスパニヤ学会第53回大会(清泉女子大学,10月27日)ではタイトル「語りのモデルへの革新的・実験的な揺さぶり-パルド=バサンInsolacion(1889)の書き出し-」として発表,先輩諸氏から多くの有益な助言をいただくとともに,さまざまな研究者と意見交換をすることができた。 その後は,これらの意見を勘案しつつ,ともかく,小説第一作『パスクアル・ロペス』Pascual Lopez(1879)から第八作までの80年代の全小説テクストに関して,書き出しにどのような空間描写があてがわれ,作中人物がいかに導入されているかという二点について,テクストの内在的特徴を時系列に沿って記述する論文の執筆に当たり,紙幅の関係から第四作までの分析結果を「第一部」として公刊した(「作中人物の名指し-パルド=バサンの初期小説(1879-1889)において-(第1部)」「国際関係・比較文化研究」第6巻2号,17〜43頁,2008年)。 同時に,第七作と第八作に関する先行研究のチェックに努め,1月24日から2月25日までマドリッド(スペイン)に滞在し主に国立図書館に通い,周辺・先行研究の収集と分析に当たった。さらに,現地の研究者たちとの意見交換に努め,両作品に対する現時点の研究状況・一般的評価を確認した。
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