2008 Fiscal Year Annual Research Report
書き出しと作中人物導入手法の研究:1880年代スペイン小説における変容過程の分析
Project/Area Number |
17520189
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
大楠 栄三 University of Shizuoka, 国際関係学部, 准教授 (80315853)
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Keywords | 外国文学 / 小説 / スペイン / 19世紀 / 書き出し / 作中人物 / 名指し / 風景描写 |
Research Abstract |
初年度よりエミリア・パルド=バサン(1851-1921)の初期小説に焦点を当て,小説第1作『パスクアル・ロペス』Pascual lopez(1879)から第8作『郷愁』Morrina(1889)までの80年代の全小説テクストにおいて,書き出しでどのような「空間描写」がおこなわれ,「作中人物」がいかに導入されているかという2つの観点から,テクストの内在的特徴を時系列に沿って観察したとき,書き出しに劇的な変容が生じており,8小説テクストの書き出しを3グループに類別可能であること,すなわち,「転回」と呼ぶべき変容が生じた作品が第5作『ウリョーアの館』Los Pazos de Ulloa(1886)と第7作『日射病』Insolacion(1889)であることを明らかにした。そこで平成20年度は 1.『ウリョーアの館』における書き出しの「転回」とは具体的にどんなものかを記述する論文を公刊した。ここで,本作における作中人物の導入と名指しが「焦点化」という物語情報の制禦と緊密に連動していること,とくに「内的焦点化」-書き出しで小説の舞台となる空間の描写が一切なされないまま,一行目に定冠詞を付されて導入される作中人物「その騎乗者」が知覚し思考することがらのみを伝えるという情報の制禦-を基盤とする「名指しシステムB」が,ほぼ一貫した小説構成法として機能しており,定冠詞を付すことによって読者が「その騎乗者」を他の人物たちを導入・名指しする主体だと解するよう小説発端から仕組まれていると見なせること,すなわち「転回」を示す作品だと主張した。 2.第6作『母なる自然』La madre Naturaleza-『ウリョーアの館』の続篇として著されたの冒頭を飾る「風景描写」をいかに解釈すべきか。この問題に取り組み,年度末に3月6日から4月4日までマドリード(スペイン)に滞在,国立図書館とスペイン高等研究所(CSIC)図書館で関係資料の収集と分析に当たるとともに,次年度における公刊に向け論文執筆をすすめた。 3.この調査では,もう一作の鍵となる第7作『日射病』と第8作『郷愁』に関する重要な助言ならびに資料提供を現地の研究者から受けた。
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Research Products
(3 results)