2006 Fiscal Year Annual Research Report
18・19世紀の科学の発展とイギリスロマン主義文学における表現原理
Project/Area Number |
17520193
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
石倉 和佳 兵庫県立大学, 環境人間学部, 助教授 (10290644)
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Keywords | イギリス文学 / 科学史 / ロマン主義 / 文芸理論 / パラダイム |
Research Abstract |
本研究では、18・19世紀の科学の発展がロマン主義文学の生成と深く関連することを、思弁的な自然哲学のみならず実験科学や啓蒙主義的科学思想も視野に入れて明らかにすることが一つの目的である。平成18年度においては以下のとおりいくつかの点について具体的検討を行った。まず、1790年代における実験科学を中心とした急進的科学の思想とロマン主義文芸の原理との関連を考察するために、プリーストリーの著作やベドーズなどの科学者のテキストを検討するとともに、当時の科学研究とロマン主義第一世代のコールリッジ、サウジー、ワーズワスなどの活動との関連を検討した。次に、ロマン派の詩人たちの作品を検討し、自然科学が研究対象とする事物をどのように表現しているかについて分析した。コールリッジの「イオニアのハープ」における光、風、などの描写と、ニュートンの『光学』やハートリーの連想心理との関連を考察するとともに、キーツの「レイミア」についても検討を始めた。これらのテーマについては次年度以降に論文としてまとめる予定である。作品研究に加えて今年度は、ロマン主義期の科学文化について総合的に考察した。イギリスロマン主義の時代が、いわゆる「二つの文化」に分裂する直前の時代であったことを明確に指摘するため、トマス・クーンのパラダイム論を援用しながら、科学史からみた当時の科学研究や科学文化の受容形態について検討し、産業革命期の社会変革との関連も合わせて考察した。同時に、化学者ハンフリー・デイビーの論文に見られるフロジストン説を作業仮説とする思考方法、およびコールリッジのベーメ全集の書き込みに見られる科学と神秘主義思想との相補性を見ようとする思考をとりあげ、どちらの場合も、アナロジーから異なるものの間に共通性を見ようとするロマン主義的思考方法が科学的考察に現れている事例であることを指摘した。この内容は「ロマン主義期の科学文化に関する一考察:デイビーとコールリッジ」と題した論文として発表した。本年度イギリスにおいては、コールリッジ国際学会(Coleridge Summer Conference)で口頭発表し、参加者と有意義な議論を行うと同時に、大英図書館での科学史関係の資料調査を行った。
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