2006 Fiscal Year Annual Research Report
現代英文学が志向する「平和構築」の可能性-歴史観・政治意識・倫理の表象研究
Project/Area Number |
17520199
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
早川 敦子 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (60225604)
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Keywords | ポスト・ホロコースト文学 / ポスト・コロニアル文学 / 政治意識 / 神話の再構築 / 歴史意識 / 倫理 / 翻訳 / 過去の再編 |
Research Abstract |
1.今年度研究成果の内容 初年度の導入としてリサーチを行ったホロコーストの第二世代の文学から得られた知見をもとに、今年度は「平和構築」の可能性として、ホロコーストの第一世代のテキストそのものが現代にどう「翻訳」され、新たな意味を付与されて、第二世代の作家たちの文学と共存しつつ、受容されてきているのかということにテーマを発展させた研究を行った。そこで新たに拓かれた視座は、「過去」は「過去」として伝達されていくのではなく、現代文学のさまざまな批評理論、また歴史相対主義からのフィードバックを得て、現代のコンテクストで読み直されてきたということである。その一つの例が『アンネの日記』であるが、過去の「記録」としての意味から、さらに新資料の発見や上記のような広いコンテクストとして捉えられることで、さらに「文学として何が構築されうるのか」という、文学そのものの意義が重要性を帯びてきたことがわかる。個人の伝記的事実をめぐる単独のテキストから、文学の普遍性を問う「時代の意識」の表象を胚胎するテキストへと、時代をへて転換されてきた推移がここに透視される。 文学テキストが表象する「時代の意識」には、本研究のテーマとなる倫理の問題のほか、政治意識も蓋し内包されてくるが、その例が、ポストコロニアル文学としてブッカー賞を獲得したインド人作家Arundhati RoyによるGods of Small Thingsである。今年度の後半は、政治意識および倫理の表象が文学にどのように表現されているかという観点に繋がる研究として、Gods of Small Thingsを読み解く論文に取り組んだ。 2.今年度の研究成果 以上のような展開を通して、現代における過去の再編としての「歴史意識」の表象研究および「政治意識」と「倫理」のテーマが象徴的に顕れる文学が現代社会にどのような影響を与える力となっているかということに射程を広げ、成果をそれぞれ2編の論文にまとめた。
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Research Products
(2 results)