2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17520243
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
磯部 祐子 University of Toyama, 人文学部, 教授 (00161696)
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Keywords | 浙江省 / 鸚歌班 / 宝巻 / 民間戯曲(演芸) / 寿誕演劇 / 民間宗教 |
Research Abstract |
今年度は、(1)浙江省の紹興地区において、鸚歌班と宝巻の上演環境の調査を行った。鸚歌班の上演調査は、農村における「寿誕演劇」をその対象としたが、数年前に比し、上演規模(舞台の大きさ、観客数)が拡大していること、「吉利話(開演前の縁起話)」は内容上に変化はないものの、蓮花落の演者を登場させ、にぎやかでリズミカルな雰囲気を醸成しているなど、類似した曲種を積極的に取り込み、観客のニーズに柔軟な対応を見せていることなどの、新たな変化を知り得た。また、本調査が対象としている鸚歌班の演員である宋小青からの聞き取りによって、農村における「寿誕演劇」が年毎に盛んになっていることも明らかとなった。民間の「寿誕演劇」が盛んになっている背景には、経済的余裕のある人々が増加し、それら富裕層の「可視的な孝」の実践として、「戯曲(演芸)」を利用しているということを指摘できる。一方、官側の「非物質文化遺産」保護の政策(2005年国務院「関於加強我国非物質文化遺産工作的意見」)も鸚歌班や宝巻などの「民間演芸」の隆盛を促進している背景の一つであるといえよう。以上のほか、(2)紹興における宝巻の上演調査も行ったが、その結果、民間において神々の誕生日を祝う際に、教化的色彩(孝などの家族倫理)の宝巻が喧じられる傾向が色濃くなっていることを指摘できる。紹興馬山の今日の宝巻上演状況を中心とした調査結果は、「中国の演芸と仏教」(『新アジア仏教史(中国編)』所収、佼成出版社、2009年出版予定)と題して報告する。(3)また、収集した民間演劇(演芸)のテキストについても活字化を終え、冊子とした。このような、改革開放後の民間での「戯曲(演芸)」の上演の調査は、民間における文芸の動向、宗教観、人生観、娯楽観を知ることができるのみならず、官の文化政策と民の文化活動の関係を知る上でも極めて有効な方法であると思われる。
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