Research Abstract |
本研究は,日本語受動構文が推意として有する意味に関する仮説を提示し,その適否を検証することと,さらに関連する語用原理に関わる一般的な原則を構築することを目的としている。研究開始の年度ではあったが,交付決定と交付が半年ほど遅れたために,当初の計画のうち,理論の構築の準備に集中的に研究資源を投入する形をとった。具体的には,日本語の従来の文法論の枠組みでの受動構文の分析を行い,構造的意味を明確にすること,直接・間接の受動の違いを構造差において明確にすること,複合用言構成素のレルの位置づけの整理,推意としての迷惑意味発生のメカニズム解明のための仮説提示,関連する語用理論に関して認識を深めること,従前の解釈のコストとの関連づけに関わる統合的枠組みの研究を,行った。また,伝統文法における受動構文の理解に学説史的背景の整理が必要と考えてそのための予備的調査を開始したが,本調査とその成果の発表は次年度に行う。また,受動構文のデータを集積するための資料などの入手は済んでいるが,交付時期の関係で研究着手がずれこんだため,研究協力者によるデータの入力は次年度に集中的に行い,その分析は次年度から翌年度にかけて行うことにする。この点はすでに仮説の理論的構築と検証は進んでいるので,最終段階でデータとの整合性をはかり形で研究を進める予定である。現時点では,語用モデルについての基本的整理は済んでおり,論文として発表しているが,さらに記憶機構との関連について認知心理学などの知見を深めながら,次年度に発展的かつ実証的なモデルを提示することを考えている。また,構造的な面では,格助詞に関する整理が必要なため,予備的な研究として行い,成果を発表しているが,動詞句のレベルで再度整理し直す必要があることがわかったので,視点を変えて分析した結果を次年度に提案する準備を継続して進めている。
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