Research Abstract |
本研究の目的は,日本語受動構文が推意として有する意味に関する仮説を提示し,その適否を検証することと,さらに関連する語用原理に関わる一般的な原則を構築することである。平成18年度の研究は,以下の3点を中心に進めた。 まず,前年度に行った理論の構築を発展的に進めて,「線条的語用論」(動的語用論)という研究方法を提唱し,具体的にどのような研究が可能かについてケーススタディを提示する準備を進めた。理論的枠組みの発展については,一部発表をしているが,研究の最終年度となる19年度に成果を発表し,最終報告書に盛り込むことができる見込みである。また,線条的語用論のコアとなる記憶システムとの関係についても,文脈論の観点から成果をまとめている。 第2に,日本語の従来の文法論の枠組みでの受動構文の分析を行い,構造的意味を明確にすること,直接・間接の受動の違いを構造差において明確にすること,複合用言構成素のレルの位置づけの整理,推意としての迷惑意味発生のメカニズム解明のための仮説提示,関連する語用理論に関して認識を深めること,従前の解釈のコストとの関連づけに関わる統合的枠組みの研究,を進めた。これらは研究報告書に最終的に論文として収載する予定であるが,一部成果をすでに発表済みであり,近日中に発表予定のものも含まれている。特に,用言複合については,主に統辞形態論の観点から,境界性の違い,それによって生じる特性の差異を整理し,文法上のカテゴリーの理解について新たな提案を行う。 第3点は,伝統文法における受動構文の理解に学説史的背景の整理である。これは,現行の文法研究における方向性とその意味を理解する上で重要なものであるが,実質的に18年に着手したもので,成果の発表は19年度に行う予定である。今年度は,大槻文彦・山田孝雄・松下大三郎などの文法論について調査を行い,受動と可能・自発・尊敬の関係を再検証した。
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