2006 Fiscal Year Annual Research Report
「語等置の方法」を用いたゲルマン語動詞体系生成に関する比較言語学研究
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17520270
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 俊也 九州大学, 大学院言語文化研究院, 助教授 (80207117)
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Keywords | 語等置 / 動詞体系 / ゲルマン語 / 印欧祖語 / ナルテン動詞 / 強変化動詞 |
Research Abstract |
昨年度(平成17年度)の研究実績を元に、ゲルマン語の特異な動詞形態生成過程には、形態的混交(morphological conflation)が潜んでいる可能性があるという視点から、研究を続行した。様々な経験的証拠から、過去現在動詞の現在時制形態は、印欧祖語の静的完了(stative perfect)と、中動現在(middle present)または中動完了(middle perfect)の混交であると考えられる。これが正しいとすれば、他のクラスの動詞形態でも何らかの混交過程を見いだせるのではないかと思われる。具体的には、強変化動詞IV, V, VI類において延長階梯母音を示す形態(IV, V類では過去複数形、VI類では過去単数形および複数形)が、印欧祖語のどの動詞形態に根源を持ち、他のどのような動詞形態と混交したのかを追及した。延長階梯母音を示す形態の根源は、祖語におけるナルテン動詞の未完了過去(the imperfect of a Narten verb)にあり、それが各クラスで広範囲に広がったという予測が可能である。この予測を裏付けるのに「語等置」の方法を用いて広範囲な経験的調査を実行したが、「食べる」という意味の動詞(ゲルマン語では、強変化V類)においてその可能性が高いことが示されるだけで、他は有用な例を発見できなかった。 今年度に海外で発行された、関連分野の重要な著作であるDon Ringe 2006 From Proto-Indo-European to Proto-Germanic, Oxfordにおいても、ゲルマン語の延長階梯を示す動詞形態については、従来の学説の紹介・批判をするだけで、明確な結論を出さずに未解決の問題だとしている。現在の水準ではまだ定説のない困難な問題であり、来年度も継続的に研究を続けたいと思う。
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