2006 Fiscal Year Annual Research Report
日英語の談話連結詞における手続き的意味と語用論的推論の研究
Project/Area Number |
17520330
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大津 隆広 九州大学, 大学院言語文化研究院, 助教授 (90253525)
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Keywords | 談話連結詞 / 手続き的意味 / 語用論的推論 / 認知効果 / 文脈想定 / 認知領域 |
Research Abstract |
関連性理論の視点から英語の談話連結詞after allの多義性の動因、および日本語の談話連結詞「だって」との関連について考察した。alter allは、「先行想定と結論の間の認知的隔たりを埋めるために、それが導く節の内容が両者の想定の隔たりを埋める根拠であると解釈せよ」という手続きを記号化している。この場合、節を明示的には従えない譲歩的用法では、会話の含意により当然と思われる根拠が語用論的推論により拡充される。after allの多義性はこうした手続き的意味、解釈に関わる推論スキーマ内の文脈想定が属する認知領域(cognitive domain)の転換(domain shift)の2つの要因により生じると考えられる。つまり、典型的な用法である譲歩的用法から正当化用法への意味拡張において、互いに同じ手続き的意味を記号化しながら、譲歩的用法では先行想定と結論がともに話し手の認知領域に関わるのに対して、正当化用法では、先行想定は聞き手の認知領域にあると話し手が仮定する想定である。 さらに、同じ手続きを記号化していながら、多義的用法は異なる認知効果を活性化する。譲歩的用法では、先行想定から結論への認識の変化の妥当性を強めるだけではなく、その結果として先行想定が矛盾し、偽として削除されることになる。この点において、譲歩的用法はbutの手続きとは異なる意味を記号化していると言える。一方、正当化用法が活性化する認知効果は、Blakemore(1992, 2002)が主張し広く受け入れられている「既存の想定の強化」という説明では不十分である。つまり、話し手の結論の妥当性を単に正当化するだけではなく、その結果として聞き手の意見をそれに合致するようにしむけている。 日本語の談話連結詞「だって」も譲歩と正当化という異なるコンテクストで使用されるとしばしば指摘されている。しかし、これまで譲歩的と捉えられてきた「だって」の用法は、結論としての肯定命題あるいは否定命題の双方が明示化されないという特徴はあるものの正当化用法と何ら変わりがない。この動因についてもafter all同様、3項説明が可能である。
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