2007 Fiscal Year Annual Research Report
連鎖の形成と解釈における統語素性と意味素性の役割に関する研究
Project/Area Number |
17520333
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
斎藤 衛 Nanzan University, 人文学部, 教授 (70186964)
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Keywords | 統語論 / スクランブリング / 削除現象 / 格素性 / 文法的一致現象 / 左方周縁部 / 主題 / 焦点 |
Research Abstract |
日本語スクランブリングが形成する連鎖について、Wh-移動およびNP-移動と比較しつつ、研究を継続した。まず、移動が削除に及ぼす影響を検討し、他の移動の場合とは異なり、スクランブリングによる痕跡を含む構成素が削除の対象とならないことを明らかにした。その上で、この事実が、削除のコピー分析とスクランブリングの再構築化によって説明されることを示した。この分析の帰結として、日本語では、(i)動詞と項の一致現象が欠落しており、(ii)格素性の認可は一致を介在しない、との結論を得た。さらに、日本語における格素性認可の特徴を検討して、日本語の空代名詞現象が項削除現象と同様のメカニズムに基づくことを示唆した。以上の議論は、韓国語にも適用できるものであることを考慮して、この研究成果をまとめた論文"Notes on East Asian Argument Ellipsis"は、ソウル国立大学が発行する専門誌Language Research(43巻2号)に発表した。 また、日本語スクランブリングが、計量詞の作用域や束縛関係に与える影響を、NP-移動との比較において検証し、スクランブリングが素性照合に基づかない移動であることを確認した。この結果をふまえつつ、文左方周縁部の主題/焦点解釈とスクランブリングとの関係を詳細に分析し、日本語では、主題/焦点の解釈を受けることができる単一の位置が文頭にあるとの結論に至った。この結論は、主題/焦点の位置が複数あるとされるイタリア語、また、動詞が文頭に移動するケルト系言語と日本語との今後の比較研究の基礎をなす。以上の成果をまとめた論文"Optional A-Scrambling"は、スタンフォード大学CSLI研究所が発行するJapanese/Korean Linguisticsの第16巻に掲載される予定である。
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