Research Abstract |
二年計画の第一年目の本年度は,外務省外交資料館にて清末日中関係に関する档案(行政文書)を広く精査し,中島雄が清国公使館書記官をつとめていた時代の日中関係史に対する理解を深めた。また,ネット上にデータベース公開されている同館所蔵の外交文書を,電子ファイルベースで精査・印刷し,いくつかの重要な外交問題に関して,海外研究協力者である孔祥吉氏と共同で論文を著述した。陳天華の自殺をめぐる既往の諸説を再検討した「陳天華若干重要史実補充訂正--以日本外務省档案為中心」および伍廷芳と日本政府との関係を考察した「日本機密档案中的伍廷芳」がそれで,いずれも中国語で執筆し,中国国内の学術刊行物に発表した。 さらに,中島雄『随史述作存稿』を閲覧する過程で,新資料『袁世凱』(佐藤鉄次郎著,1911年刊)と題する中国語の著述を発見した。同書は天津駐在の日本語新聞社の記者であった佐藤が独自の視点と情報にもとづき著した袁世凱の伝記であるが,出版直前になって,袁の息子の要請により出版差し止めとなり,かろうじて一本が外交文書の付属書類に遺されたものである。従来,この書はごく一部の研究者には知られていたものの,中国や台湾では利用不可能で,その資料的価値の高さにもかかわらず,天下の孤本になっていた。おりしも,中国で国家事業の大規模な清史史料編纂が進められる中,孔祥吉氏との共同作業により,該書を改めて排印し,長文の解題を付して,天津古籍出版社より「国家清史編纂委員会・文献叢刊」の一冊として刊行した。刊行後,中国国内での反響はきわめて大きく,中国側の専門家に清史研究における日本の外交文書の重要性を改めて認識させることになったのは,今年度の大きな成果であった。 なお国外研究協力者の孔祥吉氏は,2006年3月に約一ヶ月来日した。外交資料館や東京大学史史料室また早稲田大学図書館にて清末留学生関係の資料調査を進めたほか,村田と次年度の研究の打ち合わせを行った。
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