2008 Fiscal Year Annual Research Report
デンマーク領西インド諸島における奴隷解放についての基礎的研究
Project/Area Number |
17520502
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
佐保 吉一 Tokai University, 国際文化学部, 教授 (00265109)
|
Keywords | カリブ海 / 自由黒人 / 奴隷解放 / 奴隷法 / ピーター・フォン・ショルテン |
Research Abstract |
本年は研究最終年度にあたっており、これまでの研究を整理・総合化することに主眼をおいた。中でも平成19年度後半にワシントンDCの米国国立公文書館で入手した史料(新聞:“St. Tholnas Tidende")を読み込んで奴隷解放が実現した直後の動きを追った。この新聞には投書欄があり、読者であるプランターからの次の投稿が掲載されていた(1848年8月5日土曜日版第2面)。「解放自体には反対していないが補償を要求したい」「デンマークの奴隷制は最も緩やかmildestである」。これらからデンマーク領西インド諸島における奴隷解放が平和裡に実現した背景の一部が看取できる。特に外国人プランターが多いSt. Thomas島では当時の西欧における奴隷解放の動き(特に英領)を捉えて、解放自体は不可避で時間の問題だと考えられていたようである。それ故、際立った衝突も無く、流血を見ない形での奴隷解放が行なわれえたのであろう。この他の上記奴隷解放が平和裏に実現した背景として現時点では次のことが考えられる。(1)現地総督ピーター・フォン・ショルテンによる改革、特に自由黒人の数を増やすと共に彼らの社会的地位を向上させる政策の実施、(2)宗主国のデンマーク本国では1788年に土地緊縛制廃止が実現している上に、地方(身分制)議会でも西インド殖民地での奴隷解放に関する議論が行なわれていたこと、(3)世界に影響力を持つイギリスが既に植民地での奴隷解放を1833年に決定していたこと、(4)1848年前半に仏領マルティニーク島で奴隷暴動が発生していたこと、(5)ピーター・フォン・ショルテンと自由黒人及び奴隷の間、さらに彼と国王の間に一定の信頼関係があったこと。
|