2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17530002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木庭 顕 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (20009856)
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Keywords | ローマ法 / 占有 / 民事法実務 / 人文主義 |
Research Abstract |
私見によれば、占有の概念は法学全体の再建にとって鍵を握るものであり、他方それは千年来ローマ法との対話を通じて育まれてきたものである。私の主たる課題はローマの素材に直接働きかけてその対話を復活させ、占有概念に新たな生命を与えることであるが、その際当然ながら、同種のことをしてきた千年来の営みの検討が伴い、その上に立っての作業がなければならない。とりわけ重視する人文主義的方法の歴史は突っ込んだ検討の対象とされねばならない。 この大きなプログラムは実現すれば単一の書物をなし、その執筆は進行中であるが、研究史上も一つ埋めなければならない部分は、人文主義本体(つまり高度なローマ研究、ローマとの対話の最も批判的な部分)と実務の間の距離である。確かに頂点の法学はローマのテクストを的確に(「批判」的に)把握し、占有概念をフランス民法典に結実する民事法の基盤にもたらした。しかし他方、占有の概念は法の中核として社会の中で生々しく動くのであり、その部分がどうかということを検討に入れなければ吟味は完結しない。人文主義本体についての研究を進めるかたわら、それと微妙な関係に有る「人文主義法学」(主としてフランス)を再吟味しなければならないばかりか、後者と微妙な緊張関係に立つ同時期、つまり16-7世紀の実務に何らかの見通しを得るべく、実務法学(主としてイタリア)の文献を渉猟した。特にこの最後のことのために、出張を行った。他でも日本では文献が絶望的であるが、この分野はゼロであるからである。また古い史料であるためコピー等は許されない。 この結果、Brunsの古典的研究にもかかわらず、実務はむしろ16-7世紀になって却って占有訴訟の混乱に苦しむようになるのではないか、という新しい見通しを得るに至った。一方で一層高度に実力規制の必要が感得されるかたわら、占有訴訟は端的な取り戻しのための手段に絶えず転化しようとするのである。こうした次元と人文主義法学ないし学識法学はすれ違う。そして単に理念が実現されていないというばかりではなく、学識法学の側の占有理論がまだまだ奥行きと精度を欠く所以ではないか、という疑念が生じた。ということは、そうした土台の上に築かれた近代私法の概念体系は、その後Savignyによる大変革を経るものの、何か欠落を抱えたままであるのではないか、それが現在の大きな変革の中で意識されなければ、傷を抱えた宇宙船を打ち上げるが如くになるのではないか、という十分に新しい見解を獲得するに至った。その傷の何たるかを測定するためには再び全く新しい方法によるローマのテクストとの対峙が有用である。 これらの考察が執筆中の書物の序章を埋めることになると思われる。
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