2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17530002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木庭 顕 東京大学, 大学院法学政治学研究科, 教授 (20009856)
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Keywords | 占有 / 民事訴訟 / 法学 / 人文主義 / ローマ法 |
Research Abstract |
二年計画の終期であるために、中間報告との重複をいとわずに全体について記す。 西ヨーロッパにおいても占有概念の定着は困難を極めたのであるが、この研究はローマから西ヨーロッパがこの概念を受け取り、そして定着させていくときの諸相をなるべく立体的に捉えようとする計画の一環である。一方で現在の世界において法学的概念体系を再構築するときに、これまで何度かの大きな変革期にそうであったように、まずは法的概念世界の「半導体」とも言うべき占有概念の再構築が必要であるということ(現に占有概念が大変混乱しているということ)が有り、他方に、そもそもローマで何故そして何を基礎にこの概念が生成していったかということの私の研究の進展が有る。この研究は数年後に公表されるが、人文主義以降同種の研究をしてそれぞれの時代の課題に答えてきた歴史が有り、これをも踏まえねばならない。この点の確認は公表予定作品の序論を構成するが、今回の研究はそのさらに一環をなす。つまり占有概念が学説上実質的に理解されるようになる15-16世紀イタリア・フランスにおいて、これを担う人文主義は彼らの現実(いわば実務)と一体どういう関係にあったか、というのが問題設定である。ローマの占有概念を高い精度で理解しうるためには社会構造の中から滲み出る成熟した意識を要する。 作業の一方は人文主義法学のみならず人文主義本体の理解を再検討することであった。これは従来から多少進めてきたものであるが、とりわけオトマンやドゥアレーヌス等について今回検討が進んだ。そして何と言っても、今回それまでに持てなかった知見をもたらしたのは、一年目におけるフランス・イタリアでの資料調査により、実務に近い法学者の文献に接しえたことである。少し遅く17世紀初頭にかかる一群の法学者達の著作から、先進的なイタリアにおいてさえ、実務においては、占有訴訟において、どうしても一方では警察的絶対的な平和秩序維持に、他方では当事者間の取り戻しに、プラクティスが引っ張られ、このディレンマの中で占有独自の次元の維持に人々が苦闘する様が見て取れた。むしろ先端のローマ法研究の動向とはコントラストをなす傾向であり、特に人文主義後のイタリアでの後退が目に付く。もっとも、この見通しをさらに深めるには至らなかったのは、二年目において(体調を含む)諸般の事情により、計画した(イタリアでの)資料調査ができなかったことによる。このため材料の面で大きく欠けることとなった。現在申請中の計画が万が一採択されれば、まさに今回見通しを付けた実務的文献に少々集中して、これまで研究史の中で大きな空白である部分、つまり17世紀になると人文主義後のフランスに焦点を合わせる従来の研究の穴、を埋めるべくイタリアかつ実務という線で作業を続けたいと考える。
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