2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17530018
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
笹沼 弘志 静岡大学, 教育学部, 教授 (70283322)
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Keywords | 社会的排除 / 立憲主義 / 人権 / 日本国憲法 / 自立の支援 / ホームレスの人々 / 社会統合 / 社会権 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度の成果を踏まえ、日本各地及び米国、ニューヨークとロサンゼルスでの現地調査を実施し、日本社会における社会的排除と米国における社会的排除との実証的比較憲法学的研究を行った。日本社会では、小泉政権から安倍政権へと移行しつつも、基本的に小泉政権の新自由主義的構造改革・規制緩和路線が継承され、「雇用の融解」と呼ばれる雇用の不安定化・流動化・非正規化が一層進行し、「格差」の拡大が叫ばれるようになった。しかし、問題は単なる格差ではなく、貧困、そして市民としての権利・地位を剥奪される社会的排除の拡大である。若年労働者の半数が非正規雇用であり、雇用保険・社会保険から排除され、低賃金にあえぎ、低家賃住宅の逼迫から住居を失い、ネットカフェなどで寝泊まりするホームレス化していることが知られるようになっている。そして、文字通り路上で起居せざるを得ないホームレスの人々については、自立の支援策が不充分で野宿を再生産していることが指摘される一方、公園など公共施設での排除、大規模な行政代執行が強行され、小規模な撤去も頻繁に行われている。景気が改善しつつあると言われながら、貧困と社会的排除の拡大に歯止めがかからない状況にある。 日本の社会的排除状況は、アメリカ社会におけるそれとの比較でいかに捉えられるのか。アメリカ社会では、憲法上社会権が保障されておらず、普遍的な公的扶助や公的普遍的医療保険制度が欠落しているなど、日本とは比べようがない劣悪な条件にあるはずだが、州レベルでの救済策、民間の支援策とそれへの公的財政援助などをみれば、実は、日本の社会統合策が必ずしもアメリカに優越しているとは言えない現実がある。他方、雇用においてはますますアメリカ的な自由化を進め、解雇自由化や労働時間規制の撤廃を狙うホワイトカラー・エグゼンプションの導入などが企図されている。アメリカ以上にセーフティーネット機能が脆弱な面がある日本で、かような政策を採った場合、きわめて深刻な事態が生じる懸念がある。
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Research Products
(7 results)