2006 Fiscal Year Annual Research Report
現代アメリカ・リベラリズムの変容と「少数派の権利」論の再編
Project/Area Number |
17530109
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
飯田 文雄 神戸大学, 大学院法学研究科, 教授 (70184356)
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Keywords | 政治学 / 思想史 / 多文化主義 / リベラリズム / アメリカ / ロールズ / キムリカ / ヤング |
Research Abstract |
(1)本年度はまず、「少数派の権利」論の実践的応用過程に関する研究の第一として、多文化主義が擁護する少数派民族の規範が、女性の教育機会制限や、一夫多妻制の容認等、自由抑圧的な内容を多く含むとするフェミニストの議論と、キムリカら多文化主義者との応酬を主たる素材として、「少数派の権利」概念が内包する両義性・緊張関係を考察した。その結果、本研究では、多文化主義に対するフェミニスト側の諸批判は、1)多文化主義が持つ権利基底的な言説の限界に着目する批判、2)多文化主義の持つ基本権侵害的側面に着目する批判、3)多文化主義の持つ資源配分上の不平等性に着目した批判、という諸類型に類別する必要があり、これら各類型の差異に注目する限り、各々多文化主義理論側からの反論の方法は異なってくること、等の知見を得た。 (2)更に本年度は、「少数派の権利」論論争の政治思想史上の位置付けを明確化するため、現代アメリカ・リベラルの諸議論、とりわけその少数派アイデンティティー論・権利論を、20世紀ヨーロッパ・リベラリズムの史的展開と比較する作業を行った。その結果、本研究では、1)ヨーロッパにおける少数派権利論の発生は、第一次大戦後の少数民族の割拠状態を前に、現代アメリカと同様の集合的権利論が提起された、戦間期イギリスのリベラリズム論に遡れるが、その源流を成す議論は更に、イギリスのニュー・リベラリズムのアイデンティティー論の中にも見られること、2)これらヨーロッパのアイデンティティー論と類比的な議論を展開するものとして、アメリカ革新主義期のナショナリズム論に着目する必要があること、等の新たな知見を得た。
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