2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17530206
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐口 和郎 東京大学, 大学院経済学研究科, 教授 (10170656)
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Keywords | 低賃金労働市場 / Welfare to Work / ワーキングプア / 非正規雇用 / Living Wage |
Research Abstract |
本年度は、前年度の大阪地域での実態調査の結果を踏まえ、対象を生活保護者への就労支援事業に絞り、貧困問題が極めて深刻な足立区を事例として調査を行った。具体的には、足立区福祉部自立支援課(7月3日)、ハローワーク足立(7月28日)での担当者へのインタビュウを行った。そこでは、区が独自にきめ細かい「稼働能力に関する基礎調査」を実施しているなど、執行過程での学習が観察されたが、他方でハローワークとの連携等での問題点も浮上した。特にはハローワークでは、対象者とコーディネイターとの関係や実際に就職に結びつけるという点などにおいて問題が観察された。 これらは、足立区特有の問題というよりも、U.S.などの事例を踏まえたJoel Handlerの研究が指摘するようにWelfare to Work戦略そのものの持っている問題点と考えられる。多様な困難を抱えた貧困者へのケアと労働市場への参入促進を同時に実現するには、本来極めて高い費用が必要とされる。このことは、福祉政策での費用削減という目的と矛盾するからである。おそらくこれに関連しての「しわ寄せ」は、ケースワーカーの日常的な仕事に反映されているはずであり、この面からの解明が今後の課題となる。 また、低賃金労働問題への対応の先進事例として、ロスアンゼルスでのNPO等の取り組みの調査も行った。具体的には、NPOであるLAANE及び関係する研究者を訪問しインタビュウ・研究交流を行った、(3月9日-15日)。特に、都市開発に際して、NPOや労働組合が開発業者と結ぶCBA (Community Benefit Agreement)は、その後の労働条件などを規制していく有効な試みであり、開発業者もそれを受け入れるという意味での妥当性を見出すことができる。また、これらが可能となっている背景にはLAAMEなどのNPOがこの地域で交渉力を持ちえているという事実がある。日本の低賃金労働問題、雇用と福祉の連携問題を社会関係論的に分析することの重要性も再確認された。
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