Research Abstract |
今年度の研究では,まず政治の透明性に関して,アメリカの政治資金の実態を調べるために数々の文献を集めて調査し,また日本の政治資金に関する文献も精読した.従来の研究では,政治資金の金額自体が投票者へのシグナルとして機能するという議論があるが,すくなくとも日本の場合,献金が個人,企業,政治家,政党の間で複雑に流れる形になっており,献金額自体がシグナル効果を発揮するという議論の適用可能性は小さいと考えられた. この点を踏まえて,利益集団と投票者の行動を導入した政治経済モデルを開発し,財政再建が行われる政策決定プロセスの理論化を行った.このモデルでは,増税と支出削減を組み合わせた財政再建の構成が政治家と利益集団との癒着の程度を表すシグナルとしての役割を果たし,投票者が政治家のタイプを識別することができるようになる点を明らかにした.さらに,その結果として,非効率な政府支出が削減され,経済全体の効率性が改善されることもわかった.それと同時に,このモデルでは,投票者が政治家のタイプを区別できない分離均衡も,通常の均衡精緻化のテクニックでは排除できないことが明確になり,利益集団と癒着しやすいタイプの政治家でも増税なき財政再建によって,政権を維持できることがわかった,その意味で,増税なき財政再建のメリットとデメリットを政治経済学的視点から解明することができた. 研究成果は,公共経済理論学会(PET2005),ヨーロッパ経済学会(EEA2005)および国際大西洋経済学会(IAE2005)で報告した.それを,討論者たちから寄せられたコメントなどを反映させて,Spending Cuts or Tax Increases? The Composition of Fiscal Adjustments as a Signalというタイトルの論文にまとめた.幸運にも,この論文は,European Economic Reviewに公刊が約束された.
|