Research Abstract |
近年の会計制度は,一部に矛盾した局面を含みながら,極めて複雑でダイナミックな変化を遂げつつある。とりわけ注目されるのは,市場の事実から情報価値を経験的に確認できる純利益を廃止し,情報価値が相対的に乏しいとされている包括利益にボトムラインを一元化しようとする試みが,コンバージェンスの過程で断続的になされてきたことである。市場の事実と整合しない会計のこうした変化が,基準設定の局面でなぜ生じるのか。また,それは,いかなる要因によって主導されてきたのか。これらの問いに答えつつ,今日の会計変化のプロセスを一貫した論理によって整合的に説明することが,本研究の課題である。本年度の研究では,伝統的な計算構造論的考察に加えて,比較制度分析を援用した検討を行うことによって,この課題を遂行した。その結果,会計変化のプロセスには,ルール設定者たちの信念,市民の限定合理的な状況理解,経済主体の進化ゲーム的な相互作用といった諸要素が深くかかわっていると考えることで,当該プロセスの諸特徴をかなりの程度整合的に説明できることを明らかにした。こうした理論分析は,比較制度分析を援用することで初めて可能となったものである。社会的ルールの制度性を強調する比較制度分析の基本的観点は,会計原則の「一般的承認性」(general acceptance)を論じた一連の古典文献の観点に通じるものである。このことが,比較制度分析を援用した会計研究の可能性を支えている。そのかぎりで,比較制度分析を援用した検討は,会計研究の新しい地平を切り拓くものともなろう。以上の研究成果を,雑誌論文等として発表するとともに,単著『制度変化の会計学』として刊行した。
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