2005 Fiscal Year Annual Research Report
離島における記憶の伝承と日韓海上交流史-壱岐朝鮮人海難事故をめぐって-
Project/Area Number |
17530406
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagasaki Wesleyan University |
Principal Investigator |
亘 明志 長崎ウエスレヤン大学, 現代社会学部, 教授 (60158681)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志村 哲郎 山口県立大学, 社会福祉学部, 教授 (50264982)
小林 知子 福岡教育大学, 教育学部, 助教授 (10325433)
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Keywords | 壱岐 / 朝鮮人海難事故 / 記憶 / 記録 / 戦後補償 / 社会運動 / 強制動員 / 遺骨調査 |
Research Abstract |
平成17年度は、壱岐における海難事故遭難現場の現地調査と島民の記億と記録に関する調査を行った。 終戦直後の昭和20年には、大きな台風が2つ(枕崎台風と阿久根台風)、壱岐に襲来したこともあって、島民の記憶や記録の中には、それらを混同したものもある。そしてその混同が、事実を歪めた形で伝承されたり社会運動のなかで語られたりしてきたという経緯があった。 また、遭難を目撃したかつての島民の残した、かなり詳細な事実を述べた書簡(西書簡)が発見された。そこで、現場の当時の地形や当時からの住民(80歳以上の高齢者が多い)への聞き取りを通して、可能な限り、西書簡の詳細に関する事実確認作業も行った。その結果、いくつか不明な点が残されたものの、かなり信憑性の高い文書であることがわかった。 壱岐における朝鮮人海難事故についての記憶と記録に関する聞き取り調査とともに、当時から島に住んでいる高齢者を対象にした聞き取り調査(海難事故に焦点を絞った聞き取りではなく、島の生活習慣やライフヒストリーについてのインタビュー)を重ね、島民の意識を探った。商業地区、漁業地区、農業地区など、居住地区によって、遭難朝鮮人に対する記憶や意識に違いがあることもわかった。 また、壱岐での現地調査と平行して、日韓政府間で問題化してきた「遺骨調査」の問題、および戦時強制動員に関する調査を、関連調査として行った。とりわけ、北海道と九州を中心とした炭鉱労働と戦時強制動員との関連は、明治以来の日本の近代化のあり方と関連して、きわめて興味深いものがある。 さらに、韓国における戦後補償運動の現状を調査した。なお、壱岐の朝鮮人海難事故被害者の慰霊を行っている韓国・慶州の寺院があるということで、韓国調査の際、聞き取りを行った。壱岐の寺院とも交流があることがわかった。 以上のように、壱岐の朝鮮人海難事故の背景には、いわば日韓関係の象徴的問題と日本の近代化の縮図があるように思われる。
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