2006 Fiscal Year Annual Research Report
日本人引退海外滞在者と留学者の異文化体験:文化規範への認知的評価の変化と関係要因
Project/Area Number |
17530469
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
小柳 志津 お茶の水女子大学, 大学院人間文化研究科, リサーチフェロー (20376990)
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Keywords | 文化接触 / 海外滞在 / 文化規範 / ロングステイ / シニア / 対人関係 / 異文化適応 |
Research Abstract |
本調査は、仕事を引退し海外に在住する日本人シニア層と大学等に留学する日本人学生が、異文化の環境でどんな体験をし、どう適応しているかを比較分析する目的で始めた。今までの文化接触研究では引退在外シニアを研究したものがなく、新たなカテゴリーの調査から文化接触研究に新たな理論が提示できるのではないかと考えた。その期待通り、オーストラリアとタイで約60名と面接した本調査では、今までの理論とは当てはまらない異文化接触の現状が明らかとなった。 従来の研究では、"適応"、"ホスト文化規範の習得"、"ホストとの対人交流"は密接な相関関係があるという見方であったが、ホストとの対人交流がなくても良好に適応していたり、ホスト文化規範を習得していなくても活発な対人交流が行われていたり、というケースがしばしば見られたのである。 引退在外シニアの海外体験が従来の理論に当てはまらない理由は、従来の文化接触研究が移民や駐在員、留学生といった異文化滞在者を主に調査対象とし、理論化されているからであろう。移民や駐在員、留学生は、ホスト社会という新天地でホスト社会の人々と人間関係を構築しつつ、時には競合いながら自分のタスク(任務,業務,義務)を遂行しなければならないのに対し、引退在外シニアの場合はタスクが課せられていない。そのため、ホスト社会でホストの人々と競合う必要はあまりない。したがって、現地での対人関係のあり方も大きく異なっていた。 従来の理論が当てはまらない第二の理由に、タイを調査フィールドに選んだことも上げられる。多くの異文化適応研究は、欧米を中心とした先進国に移動してきた異文化滞在者を対象としている。アジアの途上国であるタイに滞在する日本人の体験は、その点で大きく異なる。特に、経済的に豊かな日本人が、経済的格差の大きいタイでどのような待遇を受けているか、この点はホストとゲストの関係性に大きく影響しているのだ。
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