Research Abstract |
本研究では,小中学校の算数・数学授業を(1)意味理解,(2)思考プロセス,(3)社会的相互作用を重視した長期的プログラムとして組織することにより,児童・生徒の学習観や数学的思考がどのように変化するかについて,継続的授業観察,学習観に関する質問紙調査やインタビュー,数学的思考に関する記述式テスト等により明らかにすることを目的とする。本年度は次の3つの研究を実施した。 1.算数授業を通じた小学生の学習観の変化 小学生の学習観を測定する質問紙を作成し,5年生に対して,半年間の授業の前後に実施した。先に示した3点(特に既有知識の活用による意味理解)に重点を置いた算数授業の結果,他者の示した方法の意味理解を重視するといった「理解・思考」型学習観に対応する項目の平均値が上昇した一方で,過程よりも答えを重視するといった「暗記・再生」型学習観に対応する項目の平均値が低下し,一連の授業による学習観の変容が示された。 2.中学生の数学的思考の特質と少人数授業を通じた変化 中学校2,3年生の選択数学の少人数授業を,先に示した3点(特にグループ内の社会的相互作用)に重点を置いて半年間,継続的に実施し,授業時の発話から数学的思考の変化を検討した。複数事例の縦断的分析から,少人数グループやペアで具体性のある課題に取り組み,多様な解法を比較検討することによって,グループ内の言語的相互作用が活性化され,特に発言者の思考が精緻化されることが示唆された。 3.数学授業を通じた中学生の概念的理解の変化 中学校3年生の数学授業を,先に示した3点(特に思考プロセスの多様な表現と交流)に重点を置いて探索的に組織し,4ヶ月間の授業の前後で,生徒の概念的理解を測定する記述式テストを実施した。記述内容の分析の結果,応用場面も含めた1次関数の概念的理解が深化し,また,文字式や計算式を言葉で意味づけるように思考表現が変化することが示された。
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