Research Abstract |
本研究の目的は,幼児が過去や未来に視点を動かしてメンタル・タイムトラベルを行い,時間的拡張自己を構成するプロセスを検討し,その発達が幼児の生活世界にどのような変化をもたらすのかを考察することである。2005年度は主に,幼児が未来にむけて自己を拡張するプロセスについて,以下の2つの点から検討した。 1.約束行為の日常観察:時間的視点を未来に移動させて自己や他者をとらえることは,社会的文脈において,未来にむけて他者と約束を交わすという社会的行為となって現れると考えられる。これまで発達心理学において,日常場面における約束行為の生起に関する研究はないため,今年度は幼稚園における幼児の観察から,約束行為の生起について分析した。その結果,未来において他者の行為を確約する言語行為は3歳児においてもみられるが,その履行を相互に求める実質的な約束行為は4歳児以降で多く観察された。この結果は,他の研究で時間的拡張自己が成立するとされる時期と対応しており,こうした自己発達と社会的集団のありようが関連していることを示している。 2.未来を志向した計画能力の査定方法の開発:未来の自己や外界の状況を想定して,行動を計画することは,時間的拡張自己の重要な構成要素となっている。今年度は先行諸研究をレビューし,「トリップ課題」と命名した課題を考案し,実施段階にある。この課題では,炎天下の海や雪山に遠足に出かけるという設定で,こちらが用意した持ち物のうち,「必ずもっていくもの」,「もう一つ持っていけるとしたら持っていくもの」,「もしかしたらいるかもしれないもの」を各1個ずつ,幼児に選択させる内容となっている。これによって,未来に自分の身に何らかの事態が起こる可能性を,どれくらい見積もって計画を立てられるかを調べることができると考えられる。来年度はこの結果を受けて,課題の改良を進める予定である。
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