Research Abstract |
他者との対話場面では,自分が話している相手がどのような人柄の人間なのかということを,常に推し量りながら会話を進行させていく.特に,電話などの音声コミュニケーションの場合には,相手の話し方,音声そのものが,その話し手の人柄・性格を推測するための手がかりとなる。 本研究では,このような対人的な認知能力を反映したコミュニケーション能力測定を行うための基礎研究として,音声の時間構造,および基本周波数の変化,すなわち,話す速さの変化や,声の高さ・抑揚の特徴に着目している。本年度は,その中でも特に,音声中の抑揚の特徴が話者のパーソナリティ印象に与える影響について重点的に研究を行った。 これまでに実施した聴覚実験では,高品質な音声分析合成方式であるSTRAIGHTを音声刺激の制御に用いた。そして,音声中の抑揚大きさ,すなわち,基本周波数F_0の変動幅を操作して,話し手の性格印象の変化を測定した。また,標準的なアクセントの言語規則を逸脱した,未知のイントネーションで話された音声から想起される話し手の性格印象についても検討を行った. 実験では,大学生を対象にして聴覚実験を実施し,性格特性5因子モデルに基づくBig Five Scaleを用いて,その音声から想起される話者の性格印象を測定した。 その結果,標準的な音調パターンでは,性格特性ごとにピーク位置や傾斜は異なるが,抑揚の大きさと性格印象の特性値の間に,U字・逆U字型の曲線的な関係が見出された.この各特性に固有な曲線的なパターンを統合する形で,人物像全体を再構成するモデルを提案した。 未知のイントネーションの音声については,「音声の自然さ・わかりやすさ」や,多くの性格特性の評価は低いものの,ほんわかした・のほほんとした,といった「のんきさ」などの評価はむしら高かった。さらに,その抑揚が大きくなると「外向性」は上昇し,必ずしも全面的に否定的な印象を生ずる訳ではなく,未知の抑揚に対する心理的な寛容性がみとめられた。 これまでに,この実験結果をまとめた研究論文が心理学研究に掲載されたところである。
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