Research Abstract |
スクロール提示とは,限られたスペースに文字を右から左(あるいは下から上)に移動させることで,文章を提示する情報伝達手段を意味する。狭いスペースに多量の情報を提示できるという利便性から,近年では様々な場所で利用されている。本研究では,1)様々なスクロール提示環境から観察者が受ける印象および2)スクロール提示文の読みの最中の有効視野を実験的に調査した。主な研究内容と成果は以下の通りである。 1)スクロール提示環境における,表示文字数(2,5,15文字のいずれかに設定)および快適速度(事前の調査に基づき,参加者が快適と感じる速度,その2倍,あるいは1/2倍の速度のいずれかに設定)が操作された。参加者は,それぞれの提示環境から受ける印象について,14項目を7件法で評定するよう求められた。実験の結果,5文字および15文字表示状況では,参加者がほぼ同様の印象を受けることが明らかにされた。また全ての表示文字数状況において,2倍速提示状況では,認知的評価が低下し(すなわち,より"理解しやすい"と評価されにくく),1/2倍速度提示状況では,感情的評価が低下する(すなわち,より"いらいらする"と評価されやすい)ことが明らかにされた。 2)スクロール提示文枠の,中央,左端,右端のいずれかの上部または下部に平仮名一文字がランダムなタイミングで短時間提示された。参加者の課題は,文字刺激に対する無視または弁別反応を行いながら,スクロール提示文を最も読みやすいと感じる速度(以後,快適速度)に調整することであった。実験の結果,文字刺激が提示枠右端の上または下に提示される場合,文字刺激に対する課題の有無に関わらず,他の文字提示位置条件と比較して快適速度が低下することが明らかにされた。このことは,スクロール提示文の読みの最中の有効視野が,提示枠の右側により広く分布している可能性を示している。
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