2007 Fiscal Year Annual Research Report
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17540313
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
簔口 友紀 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 助教 (10202350)
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Keywords | ヘリウム / グラファイト / グラフォイル / 吸着膜 / 超流動 / ディスロケーション / QCM / 摩擦 |
Research Abstract |
グラファイト表面は、格子欠陥や不純物を含まない、原子レベルで平坦な吸着面を数百A四方にわたって実現する。その吸着面上では、クリプトンなどの不活性原子群が、低摩擦で滑っているという実験報告があり、摩擦の微視的なメカニズムに関連して、興味を集めている。最近、電通大の鈴木らは、グラフォイル(薄片化されたグラファイト多孔体)表面上にヘリウムを吸着させ、興味深い結果を得た。グラファイトに吸着したヘリウム薄膜は、グラファイト側から数えて最初の2原子層が結晶、それ以降が液体である事が知られている。鈴木らは、これをQCM(水晶発振器)を用いて振動させると、2層目の結晶が滑り出すこと、更にヘリウム4では、液体が超流動相となるくらいの低温では、結晶は滑る事を止めてしまうことを見出した。我々は、この実験事実を(1)なぜ固体層が滑りうるか、(2)なぜ液層が超流体の時に、固体層が滑らなくなるか、の2点に分解して調べた。 まず、大前提として、グラフォイルは数百A四方のグラファイト薄片の、ほとんど独立な集合体と見なすことにする。グラフォイルの構造は実はまだよくわかっておらず、STMによる観測事実と、0.99という異常に高いχ値から仮定したものである。この前提を認めると、(1)固体層が(一層目の固体層の上で)滑るのは、実は大変不思議なことになってしまう。何故なら、グラファイト基板のファンデルワールス力を考えると、2層目の固体層は基板に数十気圧で押さえつけられているはずであり、しかも薄片のエッジによってすべり運動が固定されるため、QCMによる慣性(高々数Paのせん断応力)では、滑りようがない。我々は、3層目と勘定している部分の一部が、実は2層目に入り込んで線状欠陥(エッジディスロケーション)を作り、それが動いているという結論を得た。これは、2003年の桃井による結論と同等である。線状欠陥は大変小さな応力で動くことが知られており、QCMによる振動で充分に動きうる。(2)に関しては、超流動環境で、線状欠陥が「あたかも止まって見える」模型と、「実際に止まってしまう」模型とを考えた。前者は、線状欠陥によって運ばれる質量を、超流体がバックフローによってキャンセルしてしまう機構で、結晶化波の新しいモードである。後者は線状欠陥が液体中の正常流体を引きずることで励起する第2音波的なモードである。双方とも、吸着層ではじめて起こり得る新しい音波で、筆者によってはじめて提案された。どちらが実験で見えているかは、引き続いて調べたい。以上の結果は、2007年の3月(物理学会)、8月(量子流体、固体の国際シンポジウムQFS2007)、9月(摩擦の国際シンポジウムICSF2007)、10月(新し相に関する国際シンポジウムPSM2007)、2008年の3月(物理学会)で順次発表された。
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