Research Abstract |
昨年度検討を行ったFe-Co-B-Si-Nb合金よりもガラス形成能は劣るが,軟磁気特性が良好なFe-B-Si-Nb合金に着目し,フラックス処理が軟磁気特性に与える影響について検討した。その結果,フラックス未処理材の透磁率は熱処理により著しく増加するのに対し,フラックス処理材の透磁率は一定,もしくは若干低下する傾向が見られた。通常,透磁率と保磁力はトレードオフの関係にあり,透磁率が低下すると保磁力は増加するが,フラックス処理材では保磁力も低下していた。つまりフラックス処理材は低保磁力,低透磁率という特異な磁気特性を示し,チョークコイルなどの電源部品用磁芯材料として理想的な特性を有していることが分かった。 この様な特異な磁気特性が発現した原因を探るため,試料の組織を詳細に調べた結果,試料中央部においてガラス相の中に100μm以下程度の結晶相が析出していることが確認された。従ってフラックス処理材では,析出した結晶相が磁壁の移動を妨げるため,透磁率が低下したと考えられる。 昨年度までの研究では,フラックス処理を行うと不均質核生成の原因となる酸化物などの介在物が除去され,ガラス形成能が向上することを報告してきた。今年度の研究では,正反対の結果となった。今年度検討した合金は,磁気特性を優先したためガラス形成能が低く,合金組成が僅かに変化しただけでもガラス化が困難になる。従って,フラックス処理による合金組成の僅かな変化と,介在物が除去されて不均質核生成が阻止されたことの相乗効果により,本来は起こりにくい均質核生成による結晶相の析出が生じ,特異な組織が形成されたものと考えられる。
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