2006 Fiscal Year Annual Research Report
希少種チビトガリネズミのユーラシアにおける遺伝構造と集団構造
Project/Area Number |
17570009
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大舘 智志 北海道大学, 低温科学研究所, 助手 (60292041)
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Keywords | チビトガリネズミ / チトクロムb / コントロール領域 / 遺伝変異 / 地理変異 / 生息地分断化 |
Research Abstract |
17年度におけるチビトガリのDNA分析用のサンプルを博物館等の保存標本と自らが採集した標本から採取した。DNA分析に利用可能な標本数は、東部フィンランド15、ノルウェイ1、ロシア・カムチャッカ1、ロシア・マガダン州4、ロシア・沿海州5、ハバロフスク1、サハリン2、国後島1、北海道サロベツ11、北海道根室5、北海道浜中町2、同・嶮暮帰島5、であった。これに付加して、18年度には、北海道白糠町12頭、北海道猿払村1、モンゴル国北部1を捕獲できた。北海道内ではこの他に、鵡川町、新ひだか町から、大樹町の太平洋岸沿岸も調査を行ったがサンプルを得ることが出来なかったことから、これらの地域では生息していない可能性が考えられた。 以上のサンプリングを通じて、いままで殆ど不明であったチビトガリネズミの生息場所についての新知見を得ることができた。いままでは殆どが偶発的に捕獲されていたのだが、チビトガリは海岸砂丘や岩礫地で捕れることがわかった。これは今までのトガリネズミ類の生息地としては常識外の場所であり、チビトガリは生態的にこれらの不適なハビタットに追いやられている可能性が示唆された。 以上のサンプルを用いて、ミトコンドリアのチトクロムb遺伝子の配列を決定した。系統解析によると、ユーラシアの東部と西部ではかなり遺伝的に異なっていることがわかった。またサハリンの個体は北海道産のものと近いこと、沿海州、マガダンのものはそれぞれ独自のクラスターをつくることがわかった。さらに興味深いことに、北海道産のものは域内で遺伝変異がほとんど見られないのに対して、フィンランド産のものは同じような面積から採集したのにもかかわらず、大きな遺伝変異が見られた。 また、ミトコンドリアのコントロール領域は、下流にあるhypervariable領域が地理的変異の分析に使用可能であることがわかった。この領域は配列の最初と最後の部分は変異が少なく、その間に繰り返し領域をはさんでおよそ1,500-2,000bpぐらいの大きさがあった。ギャップを一部考慮する距離法で系統樹を作成すると、チトクロムbと同様な各地域での地域分化が見られることがわかった。ただし変異の個体変異はチトクロムbよりも大きくて、地域差を調べるには適していることがわかった。またこれもチトクロムbと同様に、北海道産のものは域内で遺伝変異がほとんど見られないのに対して、フィンランド産のものは同じような面積から採集したのにもかかわらず、大きな遺伝変異が見られた。ただ意外なことは、チビトガリの生息地は分断化されていると思われるにもかかわらず、北海道内では地域間の遺伝的変異が殆ど観察されなかったということである。 マイクロサテライト遺伝子については、一部が増幅できたのみで結局この遺伝子を用いた研究はサンプル数の関係上、できなかった。
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