Research Abstract |
アルギニンキナーゼ(AK)は,通常,基質としてL-アルギニンを用いるが,1975年にフランスのグループは環形動物のケヤリ類から精製したAK酵素が,L-アルギニンに対してだけではなく,D-アルギニンに対しても強い酵素活性を持つことを報告した.我々は,近年明らかになってきたD-アミノ酸の様々な生理作用に鑑み,「ケヤリにおいてはD-アルギニンがフォスファゲン形成のグアニジン基質になっているのではないか」という仮説を立て,ケヤリ体壁筋からグアニジン基質を単離精製した.その結果,ケヤリに含まれるアルギニンは99%がD-体であり,その濃度(約5mM)もフォスファゲンとしての使用に耐えうるものと判断された.また,我々はケヤリから二種類のAK酵素遺伝子(AK1及びAK2)をクローニングし,そのリコンビナント酵素を使ってAK2がD-アルギニンに対して強い活性を示すことを確認した.今回,ケヤリAK2の基質認識機構を,およそ30種類のアミノ酸変異体を作成することによって解明する努力を続けた.特筆すべき結果は,89位のアミノ酸変異体について得られた.この残基はそれぞれの基質の異なるフォスファゲンキナーゼ酵素ごとに独自のアミノ酸で保存されており,基質認識に重要であることが過去の研究から示されている.ケヤリAK2の89位のアミノ酸残基はYであるが,これを置換した13種類のアミノ酸置換変異体を作成し,その酵素活性の変化を調べたところ,N, E, Dに置換したものは酵素活性を失ったが,他の変異体では酵素活性を維持しており,特にQ, H, Aに置換したものは野生型よりも強い酵素活性を示した.このような酵素特性を明らかにする上で,AKの進化を考察する必要性が生じたので,AKの分子進化についての研究も行った.更に,類縁酵素のクレアチンキナーゼの酵素特性も明らかにし,ケヤリAK2の基質特異性の解明に役立てた.
|