Research Abstract |
日本各地およびペトロパブロフスク・カムチャツキー(ロシア,カムチャツカ半島)のカヤモノリ培養株について,核リボソーム遺伝子のITS2領域およびチトクローム酸化酵素遺伝子(ミトコンドリアコード)のサブユニット3領域(cox3)の塩基配列を決定した。使用した日本産の培養株の産地は,小樽,島牧,函館,室蘭,厚岸,知床,沙留,塩竃,犬吠埼,勝浦,観音崎(三浦半島),羽豆岬,桜島,津屋崎,黄波戸で,28株を解析した。その結果,ITS2では,大きく5つのハプロタイプのグループ(A, B, C, D, E)が認められた。A, B, C, Dは北海道に分布し,Eは日本全国とカムチャツカに分布していた。cox3では,K, L, M, Nの4つのハプロタイプのグループが認められ,K, L, Mは北海道に分布し,Nは日本全国とカムチャツカに分布していた。A, Bタイプをもつ株はそれぞれK, Lタイプをもち,C, Dタイプをもつ株はMタイプをもっていた。Eタイプをもつ株はNタイプであった。このように核コードとミトコンドリアゲノムコードのハプロタイプに特定のペアが見られることは,これらのグループ間で遺伝的交流が無いことを示唆している。小樽株(A-Kタイプ)と観音崎株(E-Nタイプ)の交雑実験では接合子形成が起こらず,この結果はハプロタイプ解析の結果を支持した。小樽株(A-Kタイプ)と別の小樽株(C-Mタイプ)の交雑実験では,C-MタイプのメスとA-Kタイプのオスでは接合子が形成されたが,メス・オスを逆にした場合は,接合子形成は起こらなかった。雑種接合子を培養観察した結果,減数胞子が正常に育たず,多くが発芽前後で死んでしまい,育ったのは2割程度であった。この結果は,これらのグループ間にも生殖隔離が発達していることを示している。以上の結果から,日本産カヤモノリには少なくとも3つの隠蔽種が存在する可能性が高いと言える。
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