Research Abstract |
以下の地点のサンプルについて,核リボソーム遺伝子のITS2領域およびミトコンドリアコードのチトクローム酸化酵素遺伝子のサブユニット3領域(cox3)の塩基配列を決定した:北海道(厚岸),青森県(竜飛崎,深浦),宮城県(塩竃),富山県(氷見)。その結果,いくつかの新しいハプロタイプがITS2,cox3ともに見つかり,これまで解析した89サンプル中,ITS2ハプロタイプは26個,cox3ハプロタイプは30個となった。系統解析の結果,ITS2ハプロタイプに8つ(A-H),cox3ハプロタイプに11(K-V)のハプロタイプのグループが認められた。ITS2とcox3のハプロタイプグループの組み合わせは,12組見つかり,それらの組み合わせから4〜7の交配群が存在する可能性が示された。 交雑実験では,ハプロタイプの解析結果を考慮し使用する培養株を追加した。雌13株(忍路,竜飛,脇,室蘭,三松,津屋崎,観音崎,黄波戸,桜島),雄12株(忍路,竜飛,室蘭,朝里,三松,犬吠埼,観音崎,羽豆崎,桜島)について交配実験を進めた。交雑実験結果は,以下のように3つの交配群の存在を示した:1(忍路,竜飛,脇,三松),2(室蘭,朝里,三松),3(観音崎,黄波戸,津屋崎,桜島,犬吠埼,羽豆崎)。ただし,津屋崎の1株と忍路の1株は今回試みたどの株とも接合子を形成せず,また,ハプロタイプも独自のものであることから,独立した交配群に所属する可能性がある。以上の交雑実験結果は,ハプロタイプから予想した交配群とよく一致し,日本産カヤモノリには少なくとも5つの隠蔽種が存在することが示された。交配群の1と2は日本海と北海道に分布し,3は九州から北海道に広く分布していた。本研究のように独立して遺伝する複数の分子種についてハプロタイプを解析することは,隠蔽種の探索に大変有効であると言える。
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