2007 Fiscal Year Annual Research Report
ブナ殻斗に特異的に発生する菌類の種内多様性と宿主分布との関係の研究
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17570088
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
細矢 剛 National Museum of Nature and Science, Tokyo, 植物研究部, 研究主幹 (60392536)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳増 征二 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 教授 (80092526)
大園 亮司 京都大学, 大学院・農学研究科森林生態学分野, 助教 (90335307)
窪野 高徳 森林総合研究所, 森林微生物研究領域, 研究室長 (80353671)
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Keywords | ブナ / Dasyscyphella longistipitata / 地理的隔離 / 遺伝的多様性 / ITS-5.8S遺伝子 / ハプロタイプ / 子嚢菌類 / 分布 |
Research Abstract |
本研究は、微生物であって、広範囲に分布する可能性がある菌類において、分布を規定する要因を探る目的で、ブナの殻斗に特異的に発生し、ブナの分布に伴なって汎日本的に分布するチャワンタケ類の一種Dasyscyphellalongistipitata(子嚢菌門盤菌綱、ビョウタケ目、ヒアロスキファ科)を材料として、各地のブナ林からの材料の形態、遺伝子の変異を検討し、集団間の比較を通して明らかにすることを目的にしている。昨年度までの結果から、ITS領域をタイプ分けに適すると判断し、5m以上の間隔をあけて殻斗を収集し、それぞれから単一胞子を得る広域的なサンプリングと単胞子分離によって材料を収集した。 全国12地域集団120株についてITS・5.8S領域の解析の結果、38種類のハプロタイプが検出され、ハプロタイプH12(全体の43%)は全地域集団で検出された。形態に差異はなかった。階層クレード解析では、地理的分断は生じておらず、H12を含むクレードで連続的な分布域拡大が検出された。AMOVAで各集団が遺伝的に分化していないこと、遺伝的距離の解析から、地理的距離と遺伝的距離には関連がないことからも、日本全体に遺伝的に連続した一つの集団が広がっていると考えられた。しかし、遺伝的多様性は、西南日本、東北日本で高かった。 このような集団が成立した背景には、最終氷期にブナの分布域が温暖な地域に限定された時期に、本菌の主要ハプロタイプがブナと共存し、その後の分布域拡大に伴い全国に広まり、H12をもとにして、各地域集団内で新たなハプロタイプが生じた結果によるものと推測される。
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