Research Abstract |
本研究は,水稲の高温不稔が発生している中国華中と,極端な高温条件であるにもかかわらず高温不稔の発生していないオーストラリアの稲作地帯の気象条件と水稲の受粉動態を調査し,高温不稔の発生条件を明らかにしようとするものである. 中国南京市にある江蘇省農業科学院において,枠水田に擬似水稲群落を作成し,自然高温条件下で,中国の主要品種,旧品種,および日本品種の受粉および受精と気象条件との関係を検討した.その結果以下のことが明らかとなった. 1.江蘇省南京付近では,夏期日中の気温はしばしば35度を超える.無風あるいは弱風状態と高湿度があいまって,開花時の穂の温度は,気温に近い高さとなる. 2.中国のハイブリッドライス品種や旧品種では,35度を超える高温により,受粉が不安定になる傾向が認められた.これに対し,日本品種では受粉が安定していた. 3.早朝開花する旧品種では,受粉が著しく不安定であった. オーストラリアニューサウスウェールズ州ヘイの民間農場の水田を利用して現地品種の受粉の安定性と気象条件との関係を検討した.その結果以下のことが明らかとなった. 1.ヘイの水田では,開花期の気温が37度を超えることも珍しくないが,空気は著しく乾燥しており,群落内の穂の温度はそれほど高くない. 2.しかし,群落の周辺,特に風上側では,穂温が35度を超える場合も観察された. 3.受粉は,群落の風上側周辺部ではやや不安定になるものの,直接不受精の原因となるほどではなかった.しかし,周辺部の花粉の発芽率は著しく低かった. 以上の結果,気温だけでなく,湿度条件が高温条件下での水稲の受精,受粉,花粉の発芽に強く関与していることが示唆された.
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