Research Abstract |
本研究は,オーストラリアと中国華中の水田地帯の現地調査を通じて水稲の高温不稔の発生条件を解明する目的で実施された。 オーストラリアニューサウスウェールズ州ヘイの民間農揚の水田で調査を行い,現地品種の受粉の安定性・稔実と気象条件との関係を検討した. 1.ヘイの水田では,開花期の気温が40度を超えることも珍しくないが,空気は著しく乾燥しており,群落内の穂の温度はそれほど高くない. 2.しかし,群落の周辺,特に風上側では,穂温が37度を超える場合も観察された.このため,周辺部の花粉の発芽率は著しく低かった. 3.群落周辺部では20%〜30%程度の不稔が認められた.しかし;現地の一筆の水田面積は100ha規模であり,経営に及ぼす不稔の影響は小さく,不稔の発生自体が見逃されていた. 中国荊州市にある長江大学において,水田に実験区を作成し,自然高温条件下で,中国の主要ハイブリッド水稲品の受粉,稔実,穂温と気象条件との関係を検討した.その結果以下のことが明らかとなった. 1.荊州市付近では,夏期日中の気温はせいぜい36度程度であるが,無風あるいは弱風状態と高湿度があいまって,開花時の穂の温度は,一時的に38に達することがあった. 2.中国のハイブリッドライス品種では,開花時の気温が33度程度でも,受粉が不安定になり,不稔が認められた. 3.中国のハイブリッドライスの葯は,高温条件下での受粉に不利な形であった. 以上の結果,中国華中では,湿潤・弱風という気象条件が高温不稔の発生に関与していることがわかった.また,ハイブリッドライスの高温不稔耐性が弱いことも関与している可能性がある.ある程度の気温・日射,高い湿度,弱い風という条件が揃うと,穂の温度が一時的に上昇し不稔を引き起こすと考えられた.この結論は,高温ストレスの指票として気温ではなくイネの体温・穂温を用いることの必要性を強く示唆している.
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