2005 Fiscal Year Annual Research Report
大腸菌の定常期移行期におけるσE発現誘導とプログラム細胞死の分子機構
Project/Area Number |
17580066
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
山田 守 山口大学, 農学部, 教授 (30174741)
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Keywords | プログラム細胞死 / 大腸菌 / σE / σS / コロニー形成不能細胞 / 溶菌 |
Research Abstract |
細菌の定常期の代謝は対数増殖期のものと比べて大きく異なり、大腸菌ではRNAポリメラーゼサブユニットのσSが中心となって定常期の遺伝子を発現する。その遷移点となる定常期への移行期において劇的な変動があり、大腸菌等では定常期初期に90%以上の細胞がコロニー形成不能となる。申請者代表者らは、σEの発現が移行期に増大し、これによってコロニー形成不能細胞が溶菌へと誘導されることを明らかにした。このことからσE依存のプログラム細胞死の存在が示唆されるが、その引き金や溶菌を起こすσEの下流にある遺伝子については不明である。本研究では遺伝的にプログラムされた細胞死について、引き金となる環境ストレスなどの感知から細胞死までのカスケードを形態的および分子生物学的に明らかにすることを目的とする。本年度は以下の項目について研究を行った。 1.環境ストレスの検討:環境ストレスに対応するσSレギュロンの関与についてσS遺伝子破壊株を用いて検討し、コロニー形成不能細胞の増加を確認した。また、σSレギュロンの1つでカタラーゼをコードするkatE破壊株についても同様な結果が得られたことから、少なくとも酸化ストレスが関与していることが示唆された。 2.溶菌に直接関わるσEレギュロンの同定:σE遺伝子を一過的に発現させる系を用いてσE遺伝子を発現させ、DNAマイクロアレー解析をさらに詳細に検討した。その結果、プログラム細胞死が起こらない対数増殖期では遺伝子発現の増大したもの115個、減少したも44個を見出した。また、プログラム細胞死が起こる定常期初期では遺伝子発現の増大したもの83個、減少したもの41個を見出した。増大したものの中にはこれまでに報告されたσEレギュロンの31個を含む156個あり、新たに125個のσEレギュロンの存在を示唆した。またそれらの中には、膜形成や細胞形成などに関連した遺伝子とともにプロテアーゼが4個含まれていた。また、多くの外膜ポリンタンパク質遺伝子の発現が減少しており、これも溶菌の原因となっている可能性がある。 3.形態観察系の確立と時間的変化の可視化:申請したCCDカメラを用いて種々の蛍光色素による形態観察系を確立した。コロニー形成不能細胞や溶菌が進みつつある細胞を識別できるようになった。 4.細胞死抑制変異株の分離:トランスポゾン変異株約20,000株から細胞死抑制変異株5株を分離し、現在詳細を検討中である。また、変異誘発剤を用いて細胞死抑制変異株を分離し、溶菌が抑制されていることやポリンタンパク質の正常な発現を確認した。 本年度は、次年度に向けてほぼ計画通りの結果が得られた。本プログラム細胞死は、低栄養源環境の定常期に向けた細胞数の限定と溶菌による栄養源の確保のための一種の生存戦略と推測される。この機構の解明は、発酵細菌の細胞死や溶菌の防止あるいは病原菌の繁殖抑制などに活かされると期待される。
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