2006 Fiscal Year Annual Research Report
大腸菌の定常期移行期におけるσE発現誘導とプログラム細胞死の分子機構
Project/Area Number |
17580066
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
山田 守 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (30174741)
|
Keywords | プログラム細胞死 / 大腸菌 / σE / σS / コロニー形成不能細胞 / 溶菌 |
Research Abstract |
細菌の定常期の代謝は対数増殖期のものと比べて大きく異なり、大腸菌ではRNAポリメラーゼサブユニットのσSが中心となって定常期の遺伝子を発現する。その遷移点となる定常期への移行期において劇的な変動があり、大腸菌等では定常期初期に90%以上の細胞がコロニー形成不能となる。申請者代表者らは、σEの発現が移行期に増大し、これによってコロニー形成不能細胞が溶菌へと誘導されることを明らかにした。このことからσE依存性プログラム細胞死の存在が示唆されるが、その引き金や溶菌を起こすσEの下流にある遺伝子については不明である。本研究では遺伝的にプログラムされた細胞死について、引き金となる環境ストレスなどの感知から細胞死までのカスケードを形態的および分子生物学的に明らかにすることを目的とする。本年度は以下の項目について研究を行った。 1.細胞死抑制変異株の分離:トランスポゾン変異株約20,000株から細胞死抑制変異株5株を分離・解析したところいずれも細胞死抑制が弱いことが分かった。一方、変異誘発剤処理によって細胞死抑制変異株を容易に分離され、溶菌がほぼ完全に抑制された。これらのことから、細胞死抑制にはある遺伝子あるいは複数の遺伝子の発現増加が必要と思われる。また、変異誘発剤処理によって得られた変異株ではポリンタンパク質の発現が野生株並みに回復していたことから、ポリンタンパク質の発現調節がσE依存性細胞死に関与している可能性が示唆された。 2.細胞死(溶菌)に直接関わるσEレギュロンの同定:昨年に続いてσE遺伝子を一過的に発現させる系を用いてσE遺伝子を発現させ、DNAマイクロアレー解析を進めた。その中で、プログラム細胞死が起こる定常期初期では遺伝子発現の増大した遺伝子について、それぞれの遺伝子破壊株を用いて検討したところ、いずれも溶菌を引き起こした。いくつかの遺伝子の同時平行的発現が溶菌を引き起こしている可能性も残される。1の結果も考慮して、定常期初期では遺伝子発現の減少した遺伝子について、多コピークローンを導入して検討した。いくつかのもので弱いながらも溶菌抑制を示した。今後、それらの遺伝子を同時に発現させる必要がある。 3.Mg2+による細胞死(溶菌)抑制:当初の計画にはなかったが、σE遺伝子を一過的に発現させると多くのポリンタンパク質の発現が減少することから、Mg2+の取込みが抑制されていることが推測され、Mg2+の効果を検討した。Mg2+は細胞死(溶菌)抑制を顕著に抑制した。また、DNAマイクロアレー解析の結果、Mg2+によって多くの遺伝子の発現が増大していた。今後これら遺伝子の役割を検討する必要がある。 本プログラム細胞死は、低栄養源環境の定常期に向けた細胞数の限定と溶菌による栄養源の確保のための一種の生存戦略と推測される。本研究によって、σE依存性細胞死にポリンタンパク質の発現制御が重要な働きをすることが明かとなった。この機構は、発酵細菌の細胞死抑制あるいは病原菌の繁殖防止などに活かされると期待される。
|