Research Abstract |
本年度は,除核マウス卵母細胞の表面微細構造と細胞骨格の分布について検討した。 卵核胞の核内物質が卵成熟過程を通してMAPキナーゼの活性化に必要であることが,ヒトデ(Abrieu et a1.,1997)とカエル(lwashita et a1.,1998)で報告されているが,ブタ卵では異なるとされている(Sugiura et a1.,2001)。そこで,これらの矛盾を解明するために,卵核胞の核内物質が卵細胞質の成熟に影響するかについて,マウス卵を用いて検討した。マイクロマニピュレータを用い顕微操作によって,卵核胞を少量の細胞質と共に細胞質から取り出した。以下では卵核胞を含む部分を核質体,卵核胞を含まない細胞質を細胞質体と呼ぶ。核質体と細胞質体とを別々に情報により成熟培養し,走査型電子顕微鏡により表面微細構造を,蛍光染色法により微小管,マイクロフィラメントならびに核/染色体の動態を追跡した。 除核のためにサイトカラシンB処理をした卵細胞表面では,微絨毛をもつ部分ともたない部分が混在していた。除核後,サイトカラシンを含まない培地に移し20分培養した後には,細胞質体表面は微絨毛に被われた元の状態へ復帰していた。これに対し,核質体では微絨毛がほとんど消失し,細胞膜が露出したままであった。コントロール卵を9時間培養すると,第1成熟分裂中期に進み,分裂装置の真上の細胞表面微細構造は微絨毛を欠いた領域を示す(以下,微絨毛の極性化と略す)。これに対して,9時間培養された核質体では染色体の凝集が起こらず(卵核胞のまま),紡錘体が形成されない卵が多く,微絨毛の極性形成も認められなかった。興味深いことに,除核の際に細胞質を比較的多く付着させた核質体を培養すると染色体の凝集が起こり,紡錘体の形成が認められた。これらの核質体では,微絨毛の極性化が認められた。ただし,形成された紡錘体は非対称性のもので、正常性を欠いていた。一方,細胞質体では微絨毛の極性化は起こらなかった。コントロール卵を14時間培養すると,第1極体を放出して第2成熟分裂中期に達する。放出された極体表面には微絨毛は見られなかった。これに対して,14-18時間培養した細胞質体では微絨毛の極性化も極体の放出も起こらなかった。 これらをまとめると,紡錘体の形成は細胞質の量的な影響を受けること,すなわち卵細胞質に含まれる制御因子,おそらくMPFとMAPキナーゼの活性との相関がある現象であること,また,減数分裂装置が形成された場合に,微絨毛を欠いた領域が出現することが明らかとなった。以上から,既報のブタ卵とは異なり,マウス卵では細胞質体のみでは細胞質の成熟が起こらない可能性が示唆された。
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