Research Abstract |
本研究は,優れた高分子薬物送達キャリアであるスマートハイドロゲルpoly(mediacrylic acid)grafted with poly(ethylene glycol)に細胞膜透過性ペプチド(CPP)をハイブリッドさせることにより,より高いバイオアベイラビリティ(BA)を保証するバイオ医薬の経口製剤化技術を完成させることを最終目標としている。 平成19年度はスマートハイドロゲルに各種CPPを適用してその有用性を評価し,さらにCPPの高分子薬物吸収促進機構について詳細に検討した。 1.経口送達キャリアの評価:封入実験の結果,GLP-1のスマートハイドロゲルへの封入率はおよそ60%と効率よく取り込まれた。放出実験の結果では,GLP-1 LPからのGLP-1の放出挙動はpH依存性が見られ,第2液において放出率が増大した。しかし,吸収実験の結果,GLP-1 LPでの」血糖降下作用はわずかに改善が見られたものの,有意な作用は認められなかった。一方,CPPの1種であるペネトラチンをGLP-1と共にスマートハイドロゲルに封入することで,GLP-1溶液の消化管吸収性は著明に増大することが明らかとなった。これらの結果から,吸収促進作用の優れたCPPの併用はスマートハイドロゲルによるインスリンデリバリー能を上昇させる手法となることが示唆された。 2.膜透過性ペプチドによる高分子薬物吸収促進機構表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した薬物-CPP間相互作用の評価を行った結果,インスリン分子に対する各オリゴアルギニンの結合能の差異が,インスリン吸収促進効率を決定している可能性が示唆された。さらに,薬物およびCPP間の結合比がCPPによる消化管薬物吸収促進作用の発現を決定する因子となっていることが示唆された。また,ペプチド薬物の種類によりD-R8への結合能は異なり,D-R8への結合を示したペプチドのみD-R8の同時投与により消化管吸収性が改善された。吸収実験条件において結合性の解析を行った結果,D-R8がインスリン吸収促進作用を発現するためには1分子のインスリンに対し2分子以上のD-R8の結合を要することも明らかとなった。スマートハイドロゲルを用いた高分子薬物のデリバリーシステムにおいては,今後,これまでに得られた知見に基づいて,ペプチド/タンパク薬物に対するCPPの分子結合能を評価することにより,さらに有用性の高いCPPの探索ができることが期待される。
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