2006 Fiscal Year Annual Research Report
カルシニューリン阻害剤の体内動態・薬効の母集団解析と個別化投与設計法の開発
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17590121
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
矢野 育子 京都大学, 薬学研究科, 助教授 (50273446)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増田 智先 京都大学, 医学研究科, 講師 (90303825)
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Keywords | タクロリムス / 母集団薬物動態解析 / NONMEM / P-糖蛋白質 / CYP3A5 |
Research Abstract |
タクロリムスは、臓器移植後の拒絶反応抑制を目的に汎用されているが、その治療域は狭く、体内動態の個体間・個体内変動が大きいため、血中濃度のコントロールが困難な薬物である。近年、ヒト遺伝子解析の飛躍的な発展により、薬物動態や薬物応答性の個体差は、代謝酵素やトランスポータ、受容体などの遺伝子多型によっても一部説明されることが報告され、薬理遣伝学的研究が急速に進展しつつある。そこで、生体肝移植患者を対象に母集団速度論的解析を行い、小腸と肝臓における薬物排出トランスポータのP-糖蛋白質(MDR1/ABCB1遺伝子産物)や代謝酵素(CYP3A4、CYP3A5)に着目し、タクロリムス体内動態の変動要因を統計学的手法によって解明した。小児生体肝移値症例130症例を対象に、非線形混合効果モデルプログラムNONMEMを用いたタクロリムス母集団解析を行った結果、術直後の経ロクリアランスに薬物排泄トランスポータであるMDR1遺伝子の小腸におけるmRNA発現量が、また術後経過に伴う経ロクリアランスの回復に移植肝に発現する薬物代謝酵素cytochrome P450(CYP)3A5*3アレルが有意に影響を及ぼすことが明らかとなった。一方、小児症例に比して移植肝重量の確保に難渋する成人生体肝移植症例60名を対象に母集団解析を行った結果、小児症例同様に術直後の経ロクリアランスに小腸MDR1 mRNA発現量が有意に影響する一方、術後経過に伴う経ロクリアランスの回復には移植肝ではなく小腸CYP3A5*3アレルが共変量として有意に影響することが判明した。すなわち、成人症例では小児症例に比し移植肝が相対的に小さいことから、小腸の吸収障壁としての寄与が大きく、また小児症例において影響を示さなかった小腸CYP3A5の多型情報が、成人症例のタクロリムス経ロクリアランスに影響することが示唆された。本研究で得られた遺伝子情報を含む体内動態変動因子を考慮することによって、より精緻なタクロリムス血中濃度のコントロールが可能になると考える。
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