2005 Fiscal Year Annual Research Report
旋毛虫感染による宿主筋肉細胞変異の遺伝子発現動態の解析とその分子機構の解明
Project/Area Number |
17590370
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
呉 志良 岐阜大学, 大学院・医学系研究科, 助手 (90313874)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長野 功 岐阜大学, 大学院・医学系研究科, 助教授 (40283296)
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Keywords | Trichinella spiralis / cDNA Microarray / Real time PCR / TGF-beta / c-Ski |
Research Abstract |
旋毛虫の感染により、筋肉細胞と全く異なる細胞であるナース細胞に変異する。さらに、旋毛虫の二種、T.spiralisとT.pseudospiralisではナース細胞の形態に大きな違いが認められる。本研究は宿主筋肉細胞変異に関連する宿主遺伝子を解析することにより、その機序を解明することを目的とする。 今年度はcDNAマイクロアレイ(30000遺伝子)を用いて、T.spiralis感染筋肉およびT.pseudospiralis感染筋肉における遺伝子発現を検討し、コントロールと遺伝子発現差が大きな遺伝子を選択した。その結果、T.pseudospiralis感染では924遺伝子の発現変化が見られた(up-regulationは664、down-regulationは260)。T.spiralis感染では828遺伝子の発現変化が見られた(up-regulationは648、down-regulationは180)。これらの遺伝子の内、294遺伝子の発現は二種の旋毛虫感染ともに高く、83遺伝子の発現は両者とも低くなった。また、370遺伝子の発現はT.pseudospiralisの感染でのみ高く、177遺伝子はT.pseudospiralisでのみ低くなった。354遺伝子の発現はT.spiralisの感染でのみ高く、97遺伝子はT.spiralisでのみ低くなった。これらの遺伝子の一部は細胞分化、周期制御、アポトーシス、シグナル伝達、核酸蛋白代謝と関連がある遺伝子であった。今後はこれらの遺伝子から、宿主筋肉細胞変異におけるキー遺伝子を選別して解析し、感染筋肉細胞変異を制御する遺伝子を同定する。 一方、すでに行った1178遺伝子のcDNAマイクロアレイ解析の結果に基づいて、細胞の分化や変異に関与するc-Ski遺伝子の感染筋肉細胞変異における役割について検討した。抗-c-Ski抗体を用いて感染筋肉細胞における発現量の変化とその分布を免疫染色で検討した結果、正常筋肉細胞に比べて感染筋肉細胞ではc-Ski蛋白の発現量は増加していた。また、感染時期によってc-Ski蛋白の局在は異なり、感染早期ではc-Ski蛋白は感染細胞のEosinophilic細胞質に局在して認められ、感染中期では感染細胞の肥大核内に移行していた。Real Time PCRでc-Ski遺伝子の発現動態を検討した結果、感染後8日から発現量は増加し始め、13日から28日でピークとなり、感染後期の48日後では正常レベルに復帰した。この発現動態は旋毛虫感染によるナース細胞形成の過程と一致している。また、c-SkiがターゲットとするTGF-betaシグナル経路に関連する遺伝子(TGF-beta、Smad2およびSmad4)の発現量を調べた結果、c-Ski遺伝子と同様に、その発現動態は感染細胞の変異過程と一致していた。以上の結果はc-Ski遺伝子がTGF-betaシグナルの転写抑制により、感染筋肉細胞の変異に関与していることを示唆している。
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