Research Abstract |
心筋梗塞などの組織障害性疾患の治癒機転に骨髄に由来する多分化能を持った幹細胞の関与が示唆されているが,梗塞部の心筋に起因するどのようなシグナルが骨髄内にある幹細胞に達することによって,多分化能を持ったこれらの細胞が骨髄から遊離し,梗塞局所に誘導されるかの機序は未解決のままであった.我々は今回の研究助成プロトコールに基づいて,梗塞部心筋に発現して骨髄からの幹細胞の誘導に関わる分子の探索を行なってきた.その結果,多数の候補分子の中から胎盤由来成長因子(placental growth factor : PIGF)が急性心筋梗塞後の治癒機転に非常に重要な役割を担っていることを明らかにした.すなわち,急性心筋梗塞患者の心臓で発現が誘導され再還流療法によって末梢血中に放出されるPIGFが,CD34陽性細胞(endothelial progenitor)の骨髄から末梢血中への遊離を促進することによって,心筋梗塞の治癒機転を促進し,慢性期の心機能の温存に寄与することを確認した.さらに,マウス心筋梗塞モデルを用いた検討によって,虚血に陥った心筋組織,特に,梗塞部の血管内皮細胞でPIGFの遺伝子発現が約20倍以上に上昇することを証明した.以上の成績をまとめて,Journal of the American College Cardiologyに発表した. さらに,マウス心筋梗塞モデルを用いて,大腸菌発現系で作成したヒト型リコンビナントPLGFを持続投与する治療法が,心筋梗塞後の左室機能と予後に及ぼす影響を検討した.その結果,リコンビナントPLGF治療は,毛細血管(angiogenesis)および平滑筋細胞を伴う機能血管(arteriogenesis)の両方の機序を介して,急性期の心機能の改善,慢性期での左室リモデリングの抑制をもたらせた.さらに,PLGFは心筋梗塞動物での生命予後を改善したことから,今後の治療的応用が期待される.今後もわれわれは,臨床において,PIGFを投与することが患者の心機能と予後を改善するかについて継続して検討する予定である.
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