2006 Fiscal Year Annual Research Report
TRP受容体刺激を介した高齢者の誤嚥性肺炎の予防と摂食意欲低下の予防の確立
Project/Area Number |
17590777
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
海老原 孝枝 東北大学, 病院, 医員 (30396478)
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Keywords | TRP受容体 / 誤嚥性肺炎 / 摂食意欲低下 / 嚥下反射 |
Research Abstract |
高齢者誤嚥性肺炎の原因はドーパミン作動性神経系とその下位のサブスタンスP作動性神経系の障害に起因することが多い。別に、消化液や胃内容物の逆流性誤嚥もある。加齢により、食道裂孔ヘルニア罹患率増加、下部食道括約筋弛緩及び収縮不全、粘膜の酸クリアランス低下により、健常成人と比較して、胃酸・胃内容物の逆流現象が引き起こしやすい。胃酸逆流の存在と判定されるpH4以下の液体で、ヒト嚥下反射は有意に負相関を示す(GGI 2007;7:94-95)。胃酸逆流は、少量でも、誤嚥の機会を増やす。以上より、胃酸逆流の予防が重要である。胃切除症例のような胃食道逆流が起きやすい高齢者において、セロトニン受容体作動薬のクエン酸モサプリドが消化管運動を改善することにより、肺炎の発症率を抑制した(J.Am.Geritr.Soc.2007;55:247-248)。 知覚神経終末に存在する温度感受性受容体TRPスーパーファミリーが近年同定され、私は嚥下反射と温度の関係を示した(J.Am.Geritr.Soc.2004)。TRPV1作動薬カプサイシンは濃度依存性に嚥下反射を改善させるが、TRPV1は熱い温度(70℃以上)にも反応する。又、20℃以下の冷温度も嚥下反射を改善するが、TRPM8作動薬メンソールも嚥下反射を用量依存性に改善する(Brit.J.Clin.Pharm2006;62:369-372)。 誤嚥性肺炎罹患高齢者は、特に島皮質の活性低下が著しい(J.Am.Geriatr.Soc.2004)。そこで、この部位の活性増加させることが健常な嚥下運動を惹起させることができる可能性がある。 黒胡椒の精油(匂い)がこのような作用を有することが判明した。近郊の老人保健施設の、この研究に適正な入所者105人を、35人ずつ黒胡椒精油を嗅ぐ群(以下、黒胡椒精油群)、ラベンダー精油を嗅ぐ群、蒸留水を嗅ぐ群の3群に無作為に割り付けた。黒胡椒精油群は、他の群と比較して有意に嚥下反射が改善するという即時及び慢性効果を示した。黒胡椒精油は島皮質の血流増加を示した。黒胡椒精油アロマテラピーは、島皮質の活性化を促して、嚥下反射および運動を改善することが判明した。(J.Am.Geriatr.Soc.2006;54:1401-06)。
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