2006 Fiscal Year Annual Research Report
チミジンホスホリラーゼによる肺腺癌浸潤能増強作用の分子機構の解明
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17590779
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
佐田 誠 国立循環器病センター(研究所), 臨床検査部細菌免疫検査室, 医長 (00280892)
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Keywords | thymidine phosphorylase / lung cancer / clarithromycin / lung adenocarcinoma / invasion / metastasis / integrin |
Research Abstract |
肺腺癌は、難治性固形癌の代表である肺癌の中にあって近年その割合が急増しており、その新しい治療戦略の確立が急務となっている。チミジンホスホリラーゼ(TP)はピリミジン代謝に関わる酵素であるが血管新生因子でもあり、既に癌の増殖・転移機構に関与する分子の1つとして注目されている。他の癌種と同様に、腺癌を含めた非小細胞肺癌(NSCLC)においても腫瘍組織でのTPの高発現、TPと腫瘍組織内血管密度との正の相関や予後不良との関連が報告されており、TPの血管新生を介した増殖・転移機構への関与が示唆されている。しかしその作用に加え、近年、癌細胞自体の浸潤能への関与という新たなTPの作用の存在が、種々の癌腫において示唆されるようになってきた。我々は本研究により、肺癌細胞、特に肺腺癌細胞で、血管新生を介さないような浸潤能にもTPが直接関与する可能性を報告した(Sato J, Sata M, et al. Int J Cancer 2003)。即ち、TPはヌードマウスにおける肺腺癌細胞の転移を増強させたがこれはTPの特異的阻害剤(TPI)投与により抑制された。さらに肺腺癌細胞のMatrigelへの浸潤能はTPの強制発現により増強したが、これはTPIにより著明に抑制された。 次にTPと接着因子であるα2,β1インテグリンとの関係を調べた。フローサイトメトリーで肺臓癌細胞(A549)の(α2,β1インテグリンの発現を観察したところ、TPI処理によりβ1インテグリンの発現が有意に抑制された。(Wada T, Sata M, et al. Chemotherapy,2007)これらの見当結果は、TPのシグナル経路の下流にβ1インテグリンがある可能性を示唆している。 我々はまた、抗腫瘍効果が示唆されているマクロライド系抗生剤のクラリスロマイシン(CAM)の肺臓癌細胞への作用についても検討している。CAMはA549肺腺癌細胞の増殖能には影響を及ぼさないが、A549細胞のTP発現を濃度依存性に抑制し、さらにMatrigelへのA549細胞の浸潤能を濃度依存性に抑制した。同様の結果は金コロイド法による検討でも得られている。さらに、CAMのこうした浸潤能抑制作用のメカニズムを解明するために、まずインテグリンヘの作用を調べたところ、α2,β1インテグリンの発現がCAM処理により有意に抑制されることを見い出した(Wada T, Sata M, et a1. Chemotherapy,2007)。以上の結果から、CAMの肺腺癌細胞浸潤能抑制メカニズムの1つとしてα2,β1インテグリンを介した経路が示唆されるだけでなく、CAMからインテグリンへのシグナル経路がTPを経由している可能性が考えられた。
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Research Products
(6 results)